■ 兄弟、弟を見る

二人が外に出る。

イスファーンは初めて見る風景に目を輝かせる。

パルスへ帰られないということをちゃんと理解しているのだろうか。

シャプールはそれがわかっているようで、複雑な表情をしている。

『シャプール、眉間』

つんっと額を触ると、シャプールは唇を噛み締める。

私はシャプールとイスファーンの手を引いて、街へと歩を進めた。

街には目新しいものが多いらしく、不安げだったシャプールも目を輝かせている。

シンドバッドの治めるシンドリアと同等かそれ以上だと思う。

この街に揃わないものはない。

『欲しいものがあったら買ってもいいからね』

一応お金には困っていない。

あまり使わないということもあるが。

「あねじゃ!きれい!」

イスファーンが駆けてゆく先には宝石商。

やっぱりいいとこ出の坊ちゃんだろう。

『綺麗だね。欲しいものがあるのかな』

「これ!!あねじゃとおなじいろ!」

イスファーンが指を指したのは赤色の飾り玉。

見る目がある。
これは紅柘榴だ。

かなり高い部類に入る。

『これは紅柘榴という宝石だね。イスファーンが欲しいならば買ってあげるよ』

財布には、うん、まだ他の買い物をする分はある。

「あにじゃとあねじゃといっしょ!」

イスファーンはシャプールと私を笑顔で見上げる。

三つか、かなりの出費だ。

「紅柘榴とは、ガーネットのことか」

シャプールは呟く。

宝石商のじいさんがその言葉に反応した。

「子供なのによく知ってるのう。これは異国ではガーネット、丸く磨きあげればカーバンクルと呼ばれるものじゃ」

「パルスでは有名な宝石だった」

小さくつぶやく言葉を宝石商は聞き取れなかったようだ。

ゴキゲンでイスファーンの示す紅柘榴を勘定する宝石商。

「博識な子にはこれをつけてやろうかのう」

宝石商のじいさんは紅柘榴のブースに置いてあった一番大きいものを手に取る。

「これは歪でな、宝石としては商品にならんのだがあんた達がもらってやってくれんか」

そういい、シャプールの手に握らせる。

『いやでも』

「いいのじゃいいのじゃ、練家の懐刀と呼ばれるあなた様の御子じゃ」

『……このことは内密にね』

ぱっと剣の柄の八芒星と王家の印を隠し、呟いた。

まさかバレてしまうとは。

そういえばこのじいさん、王宮内でも見たことがある気がする。

名のある宝石商ならば紅炎たちともよく会うだろう。

子連れでアスラがやってきたとバレればただではすまない。
しかも仕事を休んでいる。
私の子だと勘違いされては、紅炎や紅覇たちからなんと言われるか。


紅柘榴二つ分の代金で三つを手に入れた私たちはとりあえず昼ごはんのために食堂へ入る。

適当に鴨肉を頼み、待つ間先ほど買った紅柘榴を眺めた。

『この三つの紅柘榴…ガーネットだけど、イスファーンはどれがいい?』

これ!と一番大きな歪な形のものを手に取るイスファーン。

子供だ。
大きいものを欲しがるだろうとは思っていた。

「これだけ大きいと、どんなものに細工するか」

『イスファーンは無くすかもしれない。やはりペンダントが一番だろう』

シャプールも同意見だったようで頷いた。

『次はシャプールだ』

これだ、と鮮やかな色のものを手に取る。

「これが一番アスラの色に近い」

私は戦闘民族ファナリスの血を引いている。
髪の色は綺麗な赤、いわゆる柘榴色だ。
目の色も同様だった。

そのことを言われ、少し気恥ずかしくなる。

『それじゃあ私はこれを貰おうかな』

最後に残った飾り玉を手に取る。

簪にでもするか。

簪をつけている紅炎の妹を思い出し少し微笑む。
普段つけている簪はその妹、紅玉から貰ったものだ。

シャプールはどんな細工をするのだろうと思ったが、運ばれてきた料理によってその考えは後回しになった。

「いただきまーす!」

イスファーンの大声にくすりと笑いながら、私とシャプールはいただきますと声を揃えた。


料理を食べ終え、金属細工工の元へ行く。

イスファーンの紅柘榴をペンダントに、私のを簪につけてもらうためだ。

既に髪につけていた簪を細工職人に渡す。

紅玉がくれたこの簪は煌びやかな金細工が施してあり(紅玉のものほどではないが)かなり高級なものだと見てわかる。

職人も困惑した表情をしていた。

『やはりやめよう。簪ではなくイスファーンと同じペンダントにでも加工してくれるかな』

人から貰ったものに細工をしてはいけない。
そんな気がした。

「は、かしこまりました」

シャプールはずっと黙っていたが、ここで口を開く。

「髪飾りに加工して欲しい」

職人はかしこまりました、とシャプールの手からガーネットを受け取る。

『髪留めね、確かにシャプール髪の毛長いからいいかもね』

そんなたわいもない話をしていた時だった。

後ろから何かを感じ、ぱっと振り向く。

大通りには見学人による行列ができていた。

馬が馬車をひいて大通りを通るのをイスファーンは背伸びをして見ようとしている。

シャプールも興味深げに行列を眺めている。

二人とも見やすい位置に連れていってあげようか。

イスファーンを肩車してやると、シャプールを素早く横抱きにする。

所謂お姫様抱っこだ。

「なっ……!アスラっっ」

ぐっと足に力を入れて飛び上がる。

ファナリスの脚力は子供二人を抱えても衰えることは無い。

行列が見える屋敷の屋根に飛び乗ると、怖がるイスファーンを宥めながら、シャプールを下ろす。

「アスラ、お前人じゃないだろう」

『人は人さ。そういう民族なんだよ』

行列に目を凝らすと、馬車の中には子供の姿。

私と同じような赤い髪を持ち、露出の多い服を着ている。

大きな剣を手に持ち、不敵に笑うその姿を私は見慣れている。

『二人とも、あれが第三皇子練紅覇だよ』

シャプールは皇子か、と屋根の上から目を細めて紅覇を見る。

「まだ子供だな」

『第一、第二皇子は大人だからさ』

コケシ顔と毛玉の皇子を思い浮かべながら苦笑いをする。

『王宮の中に書架がある。明日にでもそこの地図でパルスを調べよう』

シャプールはこちらをぱっと振り向く。

「感謝する」

『いいって』



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