■ さあ、この城を出よう

それぞれの部屋に戻った私達は武装をし、アルスラーンからの合図を待つ。

そして、その時が来た。

「ダリューン!ナルサス!」

私とファランギースは顔を見合わせる。

「ギーヴ!ファランギース!」

それぞれの得物を確認する。

「エラム!アスラ!起きてくれ!すぐにこの城を出る!!」

そして私達は一斉に扉を開いた。

アルスラーンの前には六人。


「このような場所に長居は無用と存じます」

一人は黒い甲冑に大槍。


「すぐに馬の用意を致しましょう」

一人は色の薄い髪を靡かせ。


「準備はできております」

一人は無垢な瞳をちらつかせ。


「酒は馳走になった」

一人は絹のような黒髪を揺らし。


「いい女はいなかったけどね」

一人は情緒溢れる雰囲気を醸し出し。


『ようやっと戦えるわけだね』

一人はガーネットのような煌めきを纏う。


城外へ出ると、ホディールは慌てて詰め寄ってくる。

「お待ちくだされ殿下!話を聞いて下され!」

ホディールの口から出るのはダリューン達臣下を馬鹿にした発言ばかり。

ただの八つ当たりだ。

ダリューンの一声でホディールは俯く。

「無用の疑いを招いたのはわが身の不徳」

そうして二人の部下を勧めた。

「せめて殿下のご乗馬のくつわを我が部下に」

一瞬だった。

ファランギースが禿げた男の耳を削ぎ落とす。

ギーヴがもう一人の首に剣を突き立てる。

私は二人の手を殴った。

こぼれ落ちるは二本の短剣。

ファランギースはその短剣の一本を踏み付ける。

「王太子殿下に短剣を持って近づく、これが王侯に対するそなたらの礼儀か」

ホディールの兵が一瞬で主人を守るように取り囲む。

ダリューンの迫力に、ホディールは弓兵に命令する。

しかしそれは叶わなかった。

『エラムが切ってくれてるんだもんね』

「それほどでも」

私とエラムは互いに笑う。

ホディールは逡巡した末に、部下に目配せし松明をすべて消した。

辺りが暗闇に包まれる。

『あらら。皆は大丈夫かな』

私は暗闇に慣れているため、まだ見えているほうだが他の皆はどうだろうか。

一番にアルスラーンの側による。

『アルスラーン、大丈夫かな』

「アスラか!大丈夫だ」

馬の蹄の音と身を切り裂かれる音。

「この音は……?」

『向こうでシャブラングとダリューンが戦ってるよ。部下もあらかた減ってるみたいだね』

そう言うと私はアシュタロスを発動させた。

剣に炎が纏い、辺りが照らされた。

アルスラーンの目には追い詰められて最後の抵抗をするホディールが映っていただろう。

次の瞬間にはその脳天には大槍が突き刺さっていた。

『ダリューンかなり怒ってるね、怖い怖い』

残された部下は掲げられたホディールの首を見て戦意を喪失したようだった。

「そうだ、せっかくここまで来たのだから奴隷たちを解放してやろう」

私はナルサスの視線を感じてそちらを見た。

『ナルサス、どうしたのかな』

「……いや、なんでもない」

アルスラーンは一角にある奴隷小屋で馬を降りると、扉の古びた錠を壊した。

「さあ行くがいい。お前達はもう自由だ!」

奴隷たちの目が獣のような煌めきを放ったのを見て、私は飛び出した。

アルスラーンを後ろへ引っ張り、振り下ろしてくる鍬の柄を素手で止める。

「待て!おまえたちをここに縛り付けるホディールはもういないのだぞ!」

私は叫ぶアルスラーンを馬上のダリューンに向かって放り投げる。

ダリューンは意図を汲んですぐに走り出した。

ギーヴはアルスラーンの乗っていた白馬を引き、ファランギースは私が乗るための栗毛の馬を引く。

斧や鎌などの農耕道具を振り回す奴隷を軽く避けながら、私は皆の逃げる時間を稼いだ。



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