■ 者共、酒を酌み交わそうぞ

「……アスラか?」

私とファランギースが食事の用意されている大広間に入ると、ギーヴが血相を変えて駆け寄ってきた。

『ぎ、ギーヴ?ちょっと、近いんだけど』

ギーヴに手を引かれ、隣に座らされる。

正面にはエラム。

エラムの隣にはナルサス、ダリューン。

上座にはアルスラーンだ。

そのすべての目が私を捉えていた。

「馬子にも衣装か」

ダリューンのつぶやきにナルサスは少しまゆを寄せる。

「アスラに失礼とは思わんのか」

「い、いや俺は褒めようとだな」

ダリューンに少し笑いかけると、すぐに目をそらされた。

何かしてしまっただろうか。

『ダリューン、私は気にしていないから安心していいよ』

気を遣うと、ダリューンは口ごもる。

正面にいるエラムは私を見て口を開けている。

『エラムは正直だね。私がこんな服を着ているからびっくりしたんだよね』

そう言うと私は頭のヴェールをつまむ。

「い、いやそんなことは……」

エラムの言葉は届かなかった。

この服装は踊り子のようで落ち着かない。

シンドリアでこのような格好の女性を見たことがあった気がする。

私もいい歳なのだから、このような格好は控えたかったのだが。

ファランギースなら似合うんだろうな、と考えつつ着付けてくれたファランギースに心の中でお礼を言った。

ファランギースがギーヴの隣から覗き込んでくる。

『ファランギース…嬉しいけど、やっぱ私がこんな服きたら意外と思われるよ』

「皆お主に見惚れておるのじゃ」

ファランギースの言葉にギーヴはぎくりとする。

ファランギースは訝しげにギーヴを見るが、すぐに食事に目を移した。

「さあ!ファランギースとアスラも揃ったことだし食事をいただこう」

私はアルスラーンの声と同時に食事に手をつける。

ギーヴが杯を勧めて来る。

私はそれを受け取った。

「それにしてもお主がそのような格好をしてくれるとは、驚きだ」

そういうと飲み物を注ぐギーヴ。

私は左手に肉の串、右手にギーヴの杯を持っている。

その杯を一気に飲み干す。

『!?』

お酒だった。

お酒が苦手な訳では無い。
ただ、飲みすぎると大変なことになると紅明が言っていた。

「ほう、よい飲みっぷりだ!もっとどうだ」

そういいつぎ足してくるギーヴ。

それを断りながら私は胃の中の酒を薄めるために食べ物を口に放り込んだ。

私の胃の中に次々と吸い込まれて行く食物。

それを見て侍女も驚愕している。

お腹が空いていたのだ、仕方ないではないか。

ちらりとファランギースを見ると、一人で酒瓶を何個も空にしていた。

『ファランギースはお酒が強いんだね』

私は左手の串を食べながら呟いた。

ファランギースはうむと頷くとさらに瓶を空にしてゆく。

「酒の力で言い寄ってくる男共にはよいじゃろう」

ギーヴはぎくりとして私の方を向く。

「な、なんのことやら」

「それにしてもお主、酒に弱いのか」

ファランギースが不思議そうに私の方を見る。

私は置いてある酒の入った杯を見る。

『まあ、人に抱きついたりしてしまうらしいよ。紅明が言ってたからさ』

あのあと紅覇の声で起きたんだっけ……と昔を懐かしむ。

ギーヴは隣で目を輝かせる。

「ほう!それはいいことを聞いた!」

「何を考えておる」

耳をぐいっと引っ張るファランギース。

そんなギーヴを見て私は苦笑した。



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