■ さあ、カシャーン城塞へ
ナルサスとダリューンが情報収集をした成果を話し終えた後、私たちはカシャーン城へ向かうことにした。
私の足がなんとか動くようになったあと、ギーヴと同じ馬に乗ることで旅を続けることができるようになった。
ダリューンが城主のホディールに助力を求めに行った。
それまでの時間稼ぎのために私たちは戦った。
次の日には毒が完全に消え去っていた私の足は、いい動きをしてくれた。
アガレスで魔力供給ができるのをいいことに、私は敵に追われ戦うときは常にレラージュを発動させることにした。
「ルシタニアの追っ手の数は!?」
「五百騎といったところか!」
ギーヴとナルサスの言葉をギーヴの馬上でききながら、私は笑った。
『アルスラーン、先の方でちょっと待っててくれるかな』
私は馬上から飛び下りると、すぐにレラージュを発動させた。
「アスラ!!何を!」
叫び引き返そうとするアルスラーンを止めるナルサス。
「殿下、あやつは大丈夫です」
私はナルサスの言葉通りの働きをする。
馬の足を素早く切ってゆく。
前の方の陣形が崩れ、馬によって後ろの兵士が通れなくなる。
「誰だあ!!そこの女あ!!」
何騎かが倒れた馬を乗り越えて進入してくる。
あっという間に囲まれるが、私は笑う。
そしてすぐに馬上の兵を切った。
前の十騎ほどを切っただけで、後ろの兵は少し歩が遅くなった。
私はすぐにギーヴの馬の近くまで戻る。
そして鞍に飛び乗った。
「お見事」
ギーヴの言葉に笑って返す。
『ずっと休んでたんだしこれくらいしないとね』
ナルサスが走りよってくる。
「そろそろダリューンも来る頃だと思うのだが」
そうだね、と返す。
ファランギースとギーヴの矢はかなり減っている。
アルスラーンの乗っている馬も疲労が溜まっているようだ。
『ナルサス、ダリューンの援軍はいつくるのかな』
「分からぬな。もう少しの辛抱だが」
私はギーヴの弓矢を打ちやすくするために屈みながらため息をついた。
角笛の音が響く。
アルスラーンはぱっと顔を上げた。
崖上からはパルス兵の弓矢。
私とギーヴは顔を見合わせると笑った。
これで助かった。
エクバターナの東にあるカシャーン城塞にたどり着く。
アルスラーンが城主ホディールと話をしている間、ギーヴとファランギースは城主について話していた。
「あの男をどう思う?」
「よく喋る男じゃ。舌に油でも塗っているのであろう」
私は笑った。
『あまり好きじゃないな、あの人』
ギーヴは頷く。
「まことにお喋りな男はそのことでかえって不実をさらけ出すものだな!」
「誰かのようにな」
ファランギースは頷きながら皮肉を言う。
「まぁしかし善人だろうと悪人だろうとそれで葡萄酒の味が変わるものでもない」
ギーヴの言葉に疑問を抱く。
『今から葡萄酒でも飲むのかな』
「おそらくあのホディールとかいう城主は殿下をもてなすために贅の限りを尽くすだろうな。俺達はその恩恵を受けるだろう」
ギーヴの言葉に納得する。
アルスラーンが城の中に入り、私とファランギースは二人部屋に案内された。
侍女らしき者が持ってきた煌びやかな服を二人で眺める。
「私は必要ない。お主は私の服を着ておるのじゃから、着替えてはどうじゃ?」
ファランギースの言葉に頷く。
『なんだかバルバッドみたいだね』
私は一人で少し笑う。
ファランギースは聞こえていたようで、その国について尋ねてきた。
「前いた世界の国か?」
『うん、なんだか雰囲気がパルスにそっくりでね』
その国は今は共和国になっちゃったんだっけ、と思い出す。
紅明の使いで一度だけ訪れたことがあったのだ。
『懐かしいな』
ファランギースに服を着付けてもらう。
アクセサリーも付けるのが正式らしいのだが、私には眷属器があるため必要ない。
化粧をしてもらい、赤い髪をできるだけヴェールで隠す。
その出来にファランギースは頷く。
「うむ、かなりよい出来じゃ」
『そ、そうなのかな?』
戸惑いながら鏡の前に立つ。
鏡に映っていたのは私だった。
いや、普段の私ではない。
戦闘でボロボロになっていたいつもの布ではない。
貴族などが身につけそうな上質な布だ。
少しお腹が見えてはいるが、ファランギースの服ほどではない。
胸は少し開いており、そこにはガーネットが煌めく。
頭には美しい刺繍の施されたヴェールがかかり、腰から下は長い布が巻かれている。
化粧もばっちり施してあり、自分で言うのもなんだが、かなり綺麗だ。
『ファランギース……ありがとう』
すこし照れながら呟くと、ファランギースはあの美しい笑顔を見せてきた。
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