■ 兄弟、街を見よう

ご飯を食べ終え、イスファーンが大あくびをした事で、寝床の問題となった。

私の家には寝台が一つ。
大きく、大人二人は余裕で寝れる大きさだ。

シャプールとイスファーンはそこへ寝させることにする。

私は戦闘民族なので、多少寝なくても平気だ。

床でも寝れるし。

「アスラ」

寝台でイスファーンを寝かしつけたシャプールが私の名を呼ぶ。

『どうしたのかな』

私は持っていた葡萄酒で口を潤すと、シャプールに近づいた。

「俺にはイスファーンがいる。パルスに帰らなければならない。俺は、どうすればよい」

決して弱音を吐くことがなかったシャプールが呟いた言葉。

シャプールの国では成人と言ってもいいとはいえ、まだ20歳にもなっていないのだ。

弱音を吐いて当然だ。

『任せて。見つけてあげるからさ』

シャプールの頭を撫でる。

常にある眉間のしわが少なくなったような気がした。

『君も寝なよ』

そういうとシャプールを持ち上げて寝台のイスファーンの隣に置く。

シャプールはまさか持ち上げられると思わなかったらしく、目を丸くしている。

「重くなかったか」

『ああ、君の年頃の子にしてはね。よく鍛えているんだね』

私が笑うとシャプールは少し照れたように鼻を鳴らした。

しばらく経つと寝息が聞こえ、私も紅炎の剣を抱きしめながら床で眠りについた。


朝、本能のまま朝日が登るとともに起きる。

そこは狩猟本能が残っているのか、朝眠くて困るということは無い。

私は風呂に入るために薪を火にくべる。

ついでに朝ごはんの準備もしてしまう。

青菜を刻み簡単な汁物を作る。

食料庫からもってきた林檎を三個剥いておく。

パンを薄くスライスして皿に盛る。

あとは子供たちが起きるのを待つだけだが、とりあえず風呂に入ることにする。


湯浴みをするのはあまり好きではない。
正直川などに浸かるだけでもいいと思うのだが、王宮勤めをするならばさすがに仕方ない。

『髪に香油を塗るのも正直面倒だよね』

紅炎から渡された香油の瓶を揺らしながら髪に伸ばしていく。

そのときだった。

「アスラ、ここにいるのか」

湯浴み場の扉が開き、シャプールの双眸が私を捉える。

『もう起きたの、おはようシャプール』

「っっっ!??」

顔を真っ赤にするシャプール。
そういえば私は湯浴み中。
裸だ。

「すまぬっっ!!」

ばんっとしめられた扉。

『女性経験はないようだね』

私はけらけらと笑いながら湯浴みを終えた。


湯浴みを終えた私を待っていたのは顔を真っ赤にし顔をそらすシャプールと、椅子に座りこちらを笑顔で見つめるイスファーンだった。

『イスファーン、おはよう』

「あねじゃ、おはよう!!」

姉者……嬉しいかもしれない。

イスファーンの頭をポンポンと撫でてやり、食事を始める。

シャプールは未だに目をそらし、一言も話さない。

『シャプール私は気にしていないから、大丈夫だよ』

「居候の身で婦人の裸体を見てしまうとは…」

婦人…裸体……

シャプール、君どこの出なのかな。
かなりいいとこの坊ちゃんだろう。

食事を終え、片付けをし終えるとシャプールとイスファーンは窓から外を眺めている。

今日も出仕しなければいけないのだが、この兄弟を置いて仕事なんてできない。

紅炎からは怒られるだろうが、仕方ない。

『二人とも、街へ出ようか』

シャプールは先ほどのことがやっと落ち着いたようで、こちらを見つめる。

「いいのか」

『君たちの洋服は私が今から買ってくるから、ちょって待ってなよ』

それに着替えたら連れてってあげる、とイスファーンを見ると目を輝かせている。

「あねじゃ、だいしゅき!」

『イスファーンは可愛いね、私も大好きだよ』

昨日の夜出会ったとは思えないほど、イスファーンは私に慣れている。

胃袋をつかんでしまったからだろうか。


私は服を外へ買いに行く。
適当な子供服を三着、成人服を三着買う。

いずれ王宮に行き、紅炎たちと会うことも考えて一着は正装にした。

「まいど!アスラちゃん、子供がいたのかい?」

『うん、知り合いの子を預かってるんだよね』

バレたら面倒だと適当に言っておく。


家に帰るとイスファーンが飛びついてくる。

本当に懐かれたものだ。

イスファーンに買ってきた洋服を着せる。

ぴったりだ。
私の目は間違っていなかったようだ。

次はシャプールだ。
シャプールには成人男性用の服を買ってきた。

子供とはいえ、ガタイはいい。

『まあまあだね』

少し袖が余っているが、なんとかなるだろう。
服が変わっても、生まれ持った雰囲気を隠すことは出来ない。

二人して狼のようなぴりぴりとした雰囲気を纏っている。

『さあ行こう』

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