■ 兄弟、無事なんだね

私は急いで走った。

仮面の男が歩いているのを捉える。

さきほど思ったのだが、ここまで敵兵が来ているということは、王都は落ちる寸前だということ。

私は仮面の男の周りにいる二人の青い兵を倒す。

首が斬られ、倒れる兵士達。

カーラーンはすぐにふり向くと私に一太刀。

それを剣で弾くとカーラーンと仮面の男の二人を無視して王宮へと走った。


王宮内の治療室に入る。

中には慌てふためく手負いの兵士。

焦げ臭い匂いが漂い、王宮が燃えているのがわかった。

『シャプール!!』

私は叫ぶ。

奥のベッドにはシャプールの姿がなかった。

近くにいた兵士の胸ぐらを掴む。

『君、シャプールはどこにいるかな』

「し、シャプール様は…イスファーン殿に……!」

イスファーン。
そうだ、イスファーンがいるではないか。

『逃げたってことで、いいよね』

「ああ……!!」

ぱっとその兵士を離す。

どうやら心配する必要はなかったようだ。

私は胸をなでおろした。

『君達も早く逃げた方がいいよ。もうすぐ青い兵たちが来る』

「ルシタニア兵か!!」

怒号と絶叫が王宮内に響き渡る。

ついに侵攻してきたんだということが分かった。

私は向かってくるルシタニア兵を切り伏せながら考えた。

『とりあえずシャプールとイスファーンが無事だとわかっただけでもいいね。ナルサスのとこに戻ろうか』

大広間に出た。

大きな像が三体。

それがルシタニア兵によって倒されている。

私にはあまり関わりのない宗教的なことだが、少しいらっとした。

その宝石や黄金を剥ぐ様子が野蛮だ。

私が剣を構えた時だった。

「豚は豚らしくふるまうものだなぁ」

聞き覚えのある声。

またか。

私が像の破片に隠れてその様子を見ていると、ギーヴは掠奪品を纏めてこちらへやってきた。

「やあやあアスラ殿」

『……やあ』

そういうとギーヴは私の手を引いて逃げ始めた。


『こちらは王宮の奥じゃないのかな』

「抜け道があるのだ」

ギーヴががこっと床板を外すと、洞窟に繋がっていた。

暗い細い道。
松明はない。

ギーヴはため息をつくと、その穴に滑り込んだ。

中に入ると意外と広いその穴。

私はふっとギーヴを後ろから抱える。

「なっ!お主なにを……」

『後ろから追っ手が来るよ。私は暗闇に目が慣れているし、そっちの方が速いからね』

「それにしてもだなっ」

『ほら、宝石落としちゃうよ』

ぽろぽろと落ちる小さな宝石。
ギーヴは慌てて袋の口をきつく縛った。

そして私は地面を蹴った。


「おお、慣れるとすごいものだな」

『慣れないでほしいんだけどな、出口はもう少しかな?』

「おお、そこの隅を曲がって突き当たりの石壁を外せば良い」

先ほどアシュタロスを使ったため、魔力はあまり残っていない。

一気にナルサスの家まで跳べるのではないかと期待したが、魔力不足になって倒れてしまうだろう。

突き当たりの壁を片手で開ける。

こんなときファナリスはとても便利だ。

ギーヴを下ろすと、砂埃をはたき始める。

「いやはや、助かった。お主やはり人間ではなかろう」

けらけらと笑うギーヴ。

冗談で言っていることが分かったので、私は笑った。

『とりあえずエクバターナはもうだめそうだね』

遠くから煌々と燃える王宮が見える。

ギーヴは王妃の前で詠んでいた詩を紡ぐ。

よみおわるとぼそっと呟いた。

「しまった、琵琶を忘れてきてしまったな」

わたしはその場に座る。

袋の中にあった最後のパンを半分に割り、ギーヴに渡した。

ギーヴはそれを受け取ると正面に座り込む。

「お主、シャプール殿となにかあったか」

パンを喉につまらせて咳き込む。

慌てて背中を叩くギーヴ。

『……なんで』

涙目になりながら水を飲む。

「先ほどお主に運ばれている時、男の香りがしたのでな」

パンを小さくちぎりながら口に運ぶギーヴ。

『別に、急に抱き締められただけだよ』

目をそらすと笑うギーヴ。

「お主嘘は下手だな」

うるさい、と空になった袋を投げつける。

「いやしかし助かった。腹ごしらえもしたことだし、村へ行って馬を貰いに行こうか」

そういうと重い袋を持ち上げるギーヴ。

私はそれを取り上げた。

『いいよ、持ってあげるから』

ギーヴは目をぱちくりさせると、ぷっと笑い出した。

「お主、なかなか男前でもあるな」

人の物を持つのは奴隷時代の癖であるのだが、それをここで言ったところでどうにもならない。

私はとりあえず感謝の意を述べた。



隣村に行くと、村は荒らされていた。

馬もなく、家もなく。

ギーヴと私は顔を見合わせた。

「次の村まで歩くが、いいか」

『私は構わないよ』

そのときうしろから馬の蹄の音が聞こえてきた。

後ろから現れたのはルシタニア兵。

ギーヴはにっこりと笑うとルシタニア兵の首をはねた。

そして馬を見事手に入れたのである。




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