■ いま、助けに行くから

ナルサスとエラムと私は一旦住まいに戻る。

私が助けに行くということで作戦を考えてくれたのだ。

「お主は地図が読めるか」

これは軍略を学ぶ時に紅明に教えてもらったことがある。

私は大きく頷いた。

「ここがパルス王国の王都エクバターナだ」

ナルサスは広げた地図の一番大きな都市を指さした。

おそらく私が空中でみたあの城壁だろう。

「そしてここが戦があっているアトロパテネだ」

エクバターナより北の平地を指さす。

「切り立った谷がある、ここで両軍はぶつかったらしい」

私は地図を頭に刻み込む。

バカだが、戦に関しては多少の知識がある。


はずだ。


「まずは王都へ迎え。そこで情報を調べるのがよかろう」

ナルサスは頭がいいと思う。

おそらく、かなりの軍略家だ。

それなのになぜこんな山奥にいるのだろう。

『情報が集まり次第、私はシャプールの元へ行くからね』

ナルサスは困ったように頷いた。

エラムは私にいくつかの革袋を渡した。

「これを。食料と水と薬草が入っている」

エラムの好意を受け取る。

「お主は面白い。また話がしたいから、必ず帰ってくるのだぞ」

ナルサスは地図にいくつか書き込むと丸めて私に手渡した。

「異界人ということは他にはばれない方が良いだろう」

ナルサスの警告を肝に銘じる。

私は心配そうにするエラムに笑いかける。

『帰ったらまた一緒に跳ぼうか』

「ご、ごめんだ!!」

エラムは早くいけ!と怒る。

ナルサスはその様子を笑って見つめる。

馬はいらないと言ってある。

今考えれば煌帝国での戦いから休むことなく出発しているんだね。

自分の体力を信じてあげよう。

私は地面を蹴った。



途中いくつかの小さな城を横目に、見えてきた城壁に向かって跳ぶ。

レラージュを使えばもっと早いのだが、それは奥の手だ。

一睡もすることなく私は走った。


日が沈み、朝日が登った頃城壁にたどり着いた。

私は一般人に紛れて王都内に入った。

地図の隅に書いてあったナルサスの“兵に捕まった時は絹の国からの使いだ”と言えばいいという言葉に従った。

「お主、何者だ。その顔だち、パルス王国のものではないな」

『絹の国からの使いだよ』

兵は不審そうな顔立ちから一転、安心しきった顔となり門を通してくれた。

私が通ったすぐあとだった。

別の兵士がその兵士に話しかけているのが見える。

「まずいぞ、ルシタニア軍がこのエクバターナに進行している!!」

門が閉ざされた。

ギリギリだったね。

私は冷や汗をかく。

『あとはシャプールが見つかればいいんだけどね』

独り言を言う。

私はとりあえず路地裏に潜み、食料袋の中にあったパンのようなものをかじった。

そして王都の人々の噂を聞いた。

「アンドラゴラス三世の軍が負けただと!」

「まさか!そんなことあるわけないわ!」

ナルサスが心配していなかったのも頷ける。

無敵だと思われていたのだ。

それが負けた。

『なにかあったんだろうね』

水で喉を癒す。

流石に一晩走り続けるときついものがある。

まるで紅炎にあったあの晩のようだ。

今回はこけなかったが。


私はとりあえず城壁を取り囲むルシタニア軍を見るために城壁に近寄った。

兵から止められる。

「一般人は近寄ってはならん!」

『ルシタニア軍を見たいんだけどな』

「危険だ!!」

追い返された。

まあ普通はそうだ。


私は頭を抱えた。

『やっぱ強硬手段かな』

そう思うと私は兵士が何かに注目したその好きに、城壁の砦の屋根に飛び上がった。

「お」

先客がいたようだ。

まさかこんなバカみたいなことを考える人が私の他にもいるなんて。

仲間意識を持った私は驚くその人物に話しかけた。

同じく被り物をしているその人物の表情は読み取れない。

「お主、パルス王国の女人ではないな」

私は驚く。
今は男装しているのに。

『私は男だよ、勘違いしないで欲しいな』

「俺の女を見抜く目は天から授けられし天賦の才能だと自負している。なぜ男が髪に香油など塗るのだ」

私はため息をついた。

紅炎からもらった香油のことだろう。

『君は』

「ギーヴでございますよ。貴方様は」

『アスラだよ』

「ほう!なんと高貴な名のお方であろうか!お顔を拝見したいものですが、どうかこのギーヴめに見せて貰えませぬか」

面倒だな。

私はギーヴを無視することにした。

そして城壁の外を見る。

『本当に囲まれてるね』

青い軍団が覆い尽くしている。

シャプールは見当たらない。

「ん、何か来ましたな」

ギーヴの声に、ある一点を見つめた。

まさか、あれは。

横にいた兵士が狂ったように叫んだ。



「万騎長シャプール殿!!」





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