■ 兄弟、さよなら

紅炎に言われた言葉を理解するまでにはかなりの時間がかかった。

あんなに短い期間しかいなかったのに、私の心の中には兄弟の思い出がたくさんできていた。

寝台の中で目を見開く私を、紅炎は黙って抱きしめた。

『紅炎、いつから二人は、帰ったのかな』

私は笑った。

そうだ、良かったんだよね。

あの兄弟はずっと帰りたいと言っていた。

その願いが叶ったんだ。

嬉しいことじゃないか。

なのに、なんで。

『なんでこんなに悲しいのかな』

私の目には涙が浮かんでいた。

涙を流すのは何年ぶりだろうか。

紅炎に助けられて以来かもしれない。

紅明が羽扇で口元を隠しながら呟いた。

「あなたと兄弟が出会ってちょうど10日でした」

紅炎は私から離れると、立ち上がった。

「食事を持ってこさせる」

私は黙って首を振った。

『食べたくない』

紅覇は心配そうに私の顔をのぞき込む。

喉を通るわけがない。

食事はこの数日間いつもあの二人と一緒だった。

あの二人がいない食事なんて。

右頬に鋭い衝撃が走った。

それが紅炎の平手打ちだと気づいたのは紅覇が声を上げたからだった。

「炎兄!」

「食べなければ生きていられない。お前の身体には10日間栄養が入っていない」

紅炎は変わらない表情で言う。

私、10日間も寝てたんだ。

「帰る最後の日までお前を側で介抱していたシャプールとイスファーンの気持ちが分からないのか」




「あねじゃー、おきてよあそぼうよ」

「アスラ……!頼む、目を覚ましてくれ」




私は。

『紅炎、ごめん。そうだよね』

生きなきゃ。

紅炎を紅明を紅覇を紅玉を守るんだ。

その時だった。


ぐぎゅるるる〜


場違いな音が部屋に響いた。

『紅炎、やっぱお腹すいたよ』

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