■ 兄弟、死ぬなよ

戦をするにあたって、シャプールは紅炎から剣を貰った。

宝物殿にあったものだ。

バルバッド王国からの剣らしい。

貰ったシャプールを見ると、何故か目が潤んでいた。

「パルスのものと、似ている」

まさかそれを見越して紅炎はこれを渡したのだろうか。

そうだったとしたら紅炎の見抜く力はすごい。

「大切にします、紅炎殿」

拝礼するシャプールの目にはやはり涙が浮かんでいた。


『出陣だね』

甲冑をほぼ着ていない私を見て、騎馬隊の後方の歩兵として並んだシャプールは目を見張った。

「何故武装しない」

将軍として後方にいた紅覇は笑って答えた。

「アスラはね、これで武装なんだ。変わってるでしょ?」

露出の多い紅覇に言われたくはない。

そう言いたげにシャプールも紅覇を見やる。

「僕はすぐに分かるよ」

魔装をするから甲冑なんて意味がない、と言っても今のシャプールには伝わらないだろう。

私だって初めて紅炎の魔装を見た時は驚いたからね。

『さあ、行こうか』

私は愛剣をすらりと抜く。

すっと周りの空気が変わる。

シャプールはそれを分かったようだ。

こちらに話しかけることはなくなった。

紅覇は大声で叫ぶ。

「この軍を率いるのは第三皇子紅覇だ!負けることはない!」

その言葉に騎馬隊歩兵ともに叫ぶ。

私だけは剣を構えて笑っていた。

「アスラは先鋒だ。作戦通りに」

紅覇の言葉を聞くやいなや、地面を蹴る。

前方の騎馬隊を跳び越し、先頭で構えた。

「行くよ、皆、突撃!!!」

その言葉とともに雄叫びを上げて騎馬隊が走り出す。

私も飛び出した。

迎えるは武装した槍兵。

槍兵は大振りになったあとが弱点だ。
次々に急所を斬る。

本陣をとるまでが戦だ。

昨晩紅明が伝えた作戦はこうだ。

槍兵、弓兵、盾兵を積極的に狙え。
その後、単騎で本陣を攻めよ。

私の体力を全然考慮していないところに悪意を感じるが、私の体力が尽きたのは紅炎に救われたあの戦いだけだ。

紅明はよくわかっている。

あらかた槍兵を倒し終える。

次に見えたのは弓兵だ。

弓兵は接近戦に持ち込めば一瞬。

首をはねるのは容易い。

間合いに詰めよると弓兵の3個小隊を一気に全滅させる。

盾兵に関しては、今回はいないようだ。

紅覇本陣である山を駆け下り、敵本陣と思われる山を一気にかけ登る。

途中の兵士はもちろん倒しながら。

そして敵本陣へとたどり着く。

旗が掲げてある。

私は笑う。

これだけ殺しているのに笑いが出るなんて、私の精神は死んでいるのだろうか。

本陣の家臣を次々に斬伏せる。

将軍は目を見開いていた。

「お前は、練家の懐刀……!!」

『正解だよ』

そう言って将軍の首を落とした。

血を拭う。

そして山から味方本陣を振り向いた。

『……え』

その山は燃えていた。

なんで、あの兵力では絶対にあの本陣まで突破できるはずがない。

一瞬の気の逸れのせいだった。

「覚悟!!!」

相手の死んだと思っていた兵士がこちらに剣を突き出してくるのに気づいたのは、本能で身体をそらしたあとだった。

脇腹に突き刺さる痛み。

短剣が私の右脇腹を貫いた。

体をそらしていなければきっと腹を貫通していただろう。

痛みに顔を歪める。

すぐにその兵士の首をはねた。

傷から血が出る。

こんな時どうすればいいんだっけ。

バカな私の頭では出てこない。

眼前で燃える山。

火……。

以前剣闘場の治療室で見たことがある。

焼きごてを患部に押し付け、血を止めていた。

私の手に握られた剣。

こりゃバカって言われても仕方ないよね。

そう言って眷属器を発動させた。

八芒星が光り、炎熱を帯びる剣。

その炎をできるだけ抑え、熱を帯びた剣を短剣が刺さっていた患部に押し当てる。

激烈な痛み。

目がチカチカする。

焦げた匂いがあたりに漂う。

肩で息をする。

血は止まった。

アシュタロスの眷属になって正解だった。

ありがとう、紅炎。

また助けられたみたいだ。

血が止まり、思考が正常に戻った。

と言っても痛いものは痛い。

と同時にふつふつと怒りが湧いてきた。

『紅覇の本陣を焼いてしまってさ、紅覇は無事なのか』

助けなければ。

そう思い、足に力を入れようとするが、いつもの力が出せない。

『腹の傷って意外と響くんだね』

いつもの半分以下の速さで走る。

こんなんじゃ歩兵かそれ以下だ。

それまでに紅覇がもつのか。

見た感じ、相手も金属器を持っている。

金属器使い同士の戦いか。


私は悪態をつく。

くそう!

私が倒したのは偽装された本陣だったのだ。

あの将軍は偽物。

本当の本陣は平地にあったのだ。

それを攻め間違えて今こうなっている。

なんとか山をおりて走る。

空中を見ると、レラージュの魔装を纏った紅覇が戦っている。

目の前には敵の本当の本陣。

ズキズキと痛む脇腹をかばいながら向かってくる歩兵をなぎ倒していく。

空中で戦うのは紅覇と金属器使い。

目の前に立ちはだかったのは。

『なんだよそれ』

真っ黒な槍を持つ男たちだった。

「我らはアル・サーメンの力を纏いし闇の眷属器使い」

『だったら上にいるのは闇の金属器使いってことかな』

脂汗がでてきた。
さすがに痛い。

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