部活が終わる。

あたりが暗くなっていくのを部活の進行とともに眺めていた○○は秋とはいえ肌寒くなってきた気候に身をすくませる。

こんな日は暖かいコーヒーでも飲みたいものだ。

○○はなんとなくそう思った。

そういえば王城駅の駅前に新しいコーヒーショップができていた事を思い出す。

『誰か行かないかな』

とりあえず1年のマネージャー小春を誘おうとするが、小春は駅とは反対方向に帰る。

無理だな、と思いため息をついた。

そんなとき、後ろに人が立つ気配がした。

振り返ると帰り支度を済ませた進。

「ため息をついたが、どうした」

聞かれていたようだ。

○○は自分より身長が高い進を見上げながら、学校指定のカバンを背負い直した。

『駅前にコーヒーショップができたでしょ?そこに行きたいなと思ったんだけど、行ってくれそうな人がいなくて』

進は凛々しい顔つきを少しも崩さない。

何を考えているのか○○には検討もつかなかった。

『新しい店に一人で行くには少し気恥ずかしいというか』

ぴゅうと風が吹く。

秋だが、そろそろマフラーを出そうかなと○○が考えていたときだった。

「一緒に行こう」

進が口を開いた。

まさかそんなことを言われるとは思っていなくて○○はきょとんとする。

『進くん、コーヒー好きなの?』

「そういうわけではない」

進は歩き始める。

○○は急いで追いかけた。


王城駅は学園前の橋を渡りきってすぐに見える。

いつも下校時は混雑していたコーヒーショップはアメフト部しか下校する生徒が残っていない今、店内には数名の客しか見えなかった。

ラッキーと思い、進と共に店内に入る。


空調は穏やかで、外の風を凌げるだけでも○○にはありがたかった。

コーヒーを煎る香ばしい香りが店内に広がっており、○○は息をいっぱいに吸い込んだ。

○○の行動の意図が分かったようで、進も軽く息をつく。

「いい香りだ」

進とは部活の時しか話したことがないことを思い出し、○○は不思議な気持ちになった。

『何を頼もうか、進くん』

シックなエプロンを着た店員が優しい笑顔で○○と進を迎える。

マットな質感のメニューを眺める。

様々なメニューがあり、全くわからない。

『う、うわあ』

「…」

店員さんはそんな様子をクスリと笑い、お客様?と話しかけてくる。

「コーヒーはよく飲まれますか?」

○○は頷く。

進もうむと呟いた。

「甘いものはお好きですか?」

○○ははい!と答える。

進は少しならと小さな声。

「お揃いのビバレッジをこちらで用意しますね」

にこりと笑う店員さん。

意味がわからず硬直する○○だったが、意味がわかった時、少し顔が赤くなる。

『え、あの、そういうんじゃ…』

「よろしくお願いします」

進は軽く会釈して代金を払う。

○○は慌てて財布を出そうとするが、進にやんわり止められる。

「いつも俺達をサポートしてくれている。俺からではなく、チームからと思ってくれ」

店員さんはにこやかに笑うが、○○はそれどころではなかった。

「ではカフェモカのトールサイズをお二つで、トッピングありにしときましょうか」

進は代金を払うと慌てる○○の背を受け取り口の方へ押した。

代金を払うカウンターを抜け、受け取り口には爽やかな表情の男性店員がいた。

年は25歳ほどだろうか。

テキパキとした動きには無駄がない。

進はレシートを店員に見せるとちらりと○○を見る。

おどおどとした様子がなんだが小動物のようで、進は子犬を相手にしているような気分になった。

「はい、ホットのカフェモカにショット追加したもの2つね」

店員は飲み物を手渡す。

それを受け取ると○○は進を見てありがとうと呟いた。


奥の方のソファ席に座ると進はカップに口をつける。

あまりこういうものは飲まないと思っていた○○は少し興味深げに進を見た。

「うまい」

その声に我に帰った○○は自分の飲み物に口をつける。

ビターな味わいが口いっぱいに広がる。

チョコレートが入っているのだろうか。

エスプレッソの苦味の中に見え隠れしているチョコと表面に浮かべてあるホイップクリームの仄かな甘さがコーヒーの苦味を気にしなくさせる。

しかしコーヒーの苦味がかき消されるようなことは無い。

ふうと心地つくと○○は暖かい飲み物を両手で包んだ。

「こういうのも、悪くない」

進の口から何気なく零れた言葉。

○○は少し恥ずかしい気分になりながら、私も、と呟き返した。


ーーー

なんだか書きたくて書いちゃいました。
進さんには特別な想いはまだ生まれてません。


2016/01/23 梅枝
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