■ 旅人
島にたどり着く。
この島は観光地ではないらしく、あまり活気はない。
しかし港に降り立った私の目の前に広がったのは、町の大きさにそぐわない立派な船だった。
船首に竜の頭をあしらっている。
『かなり大きな船だね。私は見たことがない』
“そうですね。調べてきた方が?”
『いや、自分の足でやるよ』
沖津風はかなり情報収集が上手い。
風の便りという言葉があるように、風に乗って聞こえる噂はほぼ全てを聞き取っているそうだ。
沖津風は具象化してはいるが、彼の意思により見えるのは私のみ。
実際のところ、沖津風が皆に見えていたらこの島では着物姿の人がいないから私と共にかなり浮いていることだろう。
さきほどまで藍染と戦っていたというのに…。
こんなことを考えるなんて自分でも適応能力が高いと思う。
『手っ取り早くお金を稼ぐ方法は?』
“適当な賞金首を海軍に突き出すことですね”
息はぴったりだ。
沖津風はそれほどでも、というように目を細めて私を見た。
『路地裏に行くか』
私は左の腰に下げている沖津風を撫でた。
通常の太刀より短めの小太刀で下緒の色は海の色。
鞘は沖津風の髪と同じ漆黒だ。
道行く人々に好奇の目で見られながら道を歩く。
そんなに和装が珍しいのか。
路地裏に入り込むと、案の定荒れていた。
酒瓶は乱雑に転がっており、道には人相の悪い人が数人で座っているのが見受けられる。
『沖津風、悪いけど小銭稼ぎに最適なやつがいたら教えてくれないかな』
“そう言われると思って、すでに”
私は舌を巻く。
さすが地獄耳で情報通だ。
“右端の奥にいる目の下に十字の傷がある恰幅の良い男、名はジャーズル、300万ベリーです”
先程海軍の駐屯所で手配書を見てきました、と薄く笑う沖津風。
こっちは笑えない。
沖津風はそれでは、と呟いた後消えた。
運良くジャーズルは一人だ。
路地裏ではあるが、周りにはあまり人気がなく、私は軽くため息をついた。
『出来過ぎてる』
その声にジャーズルがこちらに気づく。
ボロボロの姿の私を見て気持ちの悪い笑みを浮かべた。
「よう姉ちゃん、迷ったのか?俺が道案内してやるからこっち来いや」
下心丸見えの笑い方に悪寒を覚えるが、私はとりあえず近づく。
ジャーズルが片腕をこっちに伸ばし、脇腹があらわになった瞬間だった。
私は小太刀を抜き、峰打ちを食らわせた。
悶絶するジャーズルを沖津風に運んでもらい、一瞬で海軍の駐屯所へ。
「大食らいのジャーズル、300万ベリーですね。確かに本人です。お名前と職業は」
『朽木碧です。旅人やってます』
死神以外の職業なんて思いつかない。
とりあえず適当に言っとけと思いそういうと、沖津風からセンスが無いですね、と一言。
私だってセンスがないことはわかってる。
とりあえず服と少しの金さえあれば、この世界でもやっていけるとわかったので、200万は小切手で、100万はキャッシュで受け取った。
『沖津風のお陰だな』
“それほどでも”
沖津風はまた人の姿に戻っている。
“碧、服を買いに行くのでしょう?”
『そうだね、まずは簡単に1着買おうかな』
私達はカジュアルなブティックに入った。
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