■ 宴
ノックの音で目が覚める。
目がひりひりするので何故だろうと思い、腕で拭うと濡れていた。
泣いてしまっていたようだ。
「起きたか碧」
ベックマンがそんな私を見て少し驚いたような顔を見せた。
「どうした、どこか痛いのか」
『…前の世界を事を少しな』
そういうと理解してくれたようで黙って背中を撫でてくる。
こういうことをされるのは子供以来で少しむず痒いが、今は甘えておくことにする。
そうしないとさらに尸魂界の皆を思い出しそうで。
「落ち着いたら甲板へ出るぞ。皆が首を長くして待っている」
私は頷くと、沖津風を佩刀してベックマンに連れられ甲板へ向かった。
甲板へ行くと、シャンクスが笑顔で迎えてくれた。
「野郎ども!宴だぞー!!!」
その言葉と共に皆が飲み始める。
すでにシャンクスが紹介をしてくれていたのか、多くの船員から話しかけてもらえる。
一通り話しかけてもらえた後、ほとんど口をつけていない酒を手に持って、甲板の際の方に佇み静かに飲んでいるベックマンの元へ向かった。
「大変そうだったな」
『皆明るく、元気だな』
少しため息をつきながら、赤火砲を指先から出す。
ベックマンはつけようとしていたマッチをしまい、少し微笑みながら煙草に火をつける。
「気が利くな」
『別に、そんなことないさ』
「明日から別々の船だな」
ふうと煙を口からだし、酒をあおる。
同じように貰っていた酒に口をつける。
『どんな能力か分かり次第連絡するさ』
私には空間移動の能力もあるからな、と付け加える。
「それは知らなかったな。ならば今からカルサ島に戻ることも出来るのか」
カルサ島、あの島の名前だろうか。
あれだけ滞在しておいて島の名前を知らなかったのは自分でも驚きだ。
『ああ、出来るな』
なにか証明が欲しいか?と問うと、無理はするなと言われる。
尸魂界では禁術だったが、ここは尸魂界ではない。
禁術に指定した者たちに罰せられることもない。
思い出すように詠唱を唱え、飛ぶ場所つまりカルサ島を思い浮かべる。
『禁術、空間転移』
それと同時に自分の体が浮く感触がする。
目を開くとそこはさきほどの島だった。
さて、なにをもって証明するか。
市場まで瞬歩で急ぐと、雑貨屋が目に入った。
中に入り、黒い宝石のついたピアスを買う。
100万のうち、まだ90万強は残っている。
店を出るとすぐに、再度詠唱をしレッドフォース号を思い浮かべる。
『禁術、空間転移』
体が浮き、目を開くと横にはベックマンがいた。
驚いた顔をするベックマン。
『ただいま』
「本当のようだな」
なんてやつだ、と言いたげに笑うベックマン。
『これを買ってきた』
そう言うとピアスを手渡す。
「これは…」
『ペンダントの礼だ』
甲板に置きっぱなしにしていた酒を一気に飲み干す。
『もう寝る』
コップをテーブルに置きに行き、ベックマンをチラリと見ると未だにピアスを見つめていた。
再度ベックマンの元へ向かい、ベックマンの顔を覗き込む。
『どうした、気に入らなかったら捨ててくれて構わないぞ』
「いや、その逆だ。この石を何か知っているか」
首を横に振る。
そういえば石言葉とかいうものがあるんだったな。
「ブラックオニキスという宝石だ。意味は冷静さ、意志の強さ、知性」
『ベックマンにぴったりだな』
「ありがとうな」
ピアスを見つめる目をこちらに移すベックマン。
『構わないさ、それじゃあシャンクスたちによろしく言っておいてくれ』
そういうと甲板から自室へと向かった。
自室に入り、ベットの近くのランプを灯す。
沖津風がすぐに現れて、ベッドに腰掛けた。
“あなたが他人に贈り物をするなんて”
『別に、いいだろう』
沖津風の言葉をかわすようにベッドに潜り込む。
“碧、あなたはまだ自分の気持ちに気づいてないのですよ”
『うるさい』
そういい、布団を被る。
ため息とともに布団の上から体の上に手を置く沖津風。
ぽんぽんとあやすように動くその手に眠気を誘われ、私はそのまま眠りに落ちた。
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