■ 食堂
嬉しさを隠しながら、荷を詰め終えた船に乗り込む。
「レッドフォース号へようこそ碧!」
シャンクスがマントを翻して笑う。
いつもはちゃらちゃらしているくせにこういうところが格好いいから困る。
さあ宴だぞ野郎どもー!という掛け声がかかるが、ベックマンが制止する。
まだ港を出航してもいないのだ。
当たり前だ。
シャンクスはげふんと咳払いをすると改めて叫んだ。
「出航だ!!」
その声と共に皆がおおー!と呼応する。
こういうところは護廷十三隊を彷彿とさせるところがある。
「どうだ、海は広いだろう」
出航して、島がどんどん小さくなる。
そんなときベックマンが話しかけてきた。
『そうだな、私の過ごしていた場所に海はなかったから新鮮だな』
「宴が始まる前に、今日泊まる部屋に案内する」
その申し出を断る。
さすがにそこまで甘えるわけにはいかない。
正式なクルーではないのだから。
『それに今日は宴なのだろう。一晩中起きているのではないか?』
「そりゃそうだ。しかし女一人を泊めるのに部屋が足りなくなるようなちゃちな船じゃねーよ」
ベックマンは目を伏せてレッドフォース号の甲板を眺める。
どれだけ長い期間この船に乗っているのだろう。
その目は生来の親友を眺めるようだった。
『それでは、案内を頼もうか』
船の中に入ると、食堂があった。
そこにはウェーブがかった髪を持つ人物と、かなり腹が出ている大柄な人物がいた。
前者に関しては年はシャンクスより少し年上だろうか。
後者は肉を持ってこちらをみてニカッと笑っている。
「おっ、お頭が言ってた子か!」
少しため息をつく。
子と言われるほどの歳ではないのだが。
『朽木碧だ。よろしく頼む』
「俺はヤソップだ!この船の狙撃手をやってるんだ!」
「俺ぁラッキー・ルウ!よろしくな」
二人とも豪快に笑う。
海賊というのは皆このように陽気なのだろうか。
この海賊団をまとめるのが、四皇であるシャンクスか。
頭が頭なら船員も船員ということか。
唯一のストッパーがベックマンというところだな。
食堂を抜け、前を歩くベックマンに語りかける。
『苦労してきたんだな』
「分かるか」
即答してくれた。
やはりそうらしい。
私も苦労させられてきたから、とても分かる。
特に旅禍として一護達がやってきたとき、勝手に行動する白哉や市丸を何度尾行したことか。
ここだ、と言ってベックマンが歩を緩める。
『いい部屋だな』
入ると、日当たりの良い小部屋だった。
ベッドのそばには窓があり、その窓から夕日が差し込む。
枕元には小さなランプとテーブルがあり、読書にはもってこいと言ったところか。
小さなクローゼットがこの部屋のシンプルさを引き立たせている。
「宴が始まるのはあと2時間後ほどだろう。コックが豪華な料理を用意すると言っていた」
『そうか、ならば私は寝るよ。明日からは慣れない環境に置かれるだろうからな』
今のうちに寝だめしておく、と言いベッドに座る。
スプリングで軽く沈む。
「ああ分かった。横は俺の部屋だ。いつでも読んでくれて構わない」
そう言ってベックマンは出てゆく。
出ていくとすぐに沖津風が具象化して現れた。
“不安そうですね”
『ああ。白ひげの船はこことは違い、顔見知りはいないだろうからな。だが私自身の能力を知るためだ』
沖津風は笑った。
“やはりあなたは強い”
『そんなことないさ。沖津風がいなければ私は弱い』
“普通ならこのような状況に陥ればなんとかして元の世界に戻ろうとする。だが、あなたはこの違う世界を受け入れた。それだけで十二分に強いですよ”
沖津風の言葉に私は苦笑いするしかなかった。
いつか、いつか。
戻れる日が来るのだろうか。
その時はいつも憎まれ口を叩いていた山じいにただいまと言いたい。
目を合わせてはそらそうとしていた白哉に戻ってきたと言いたい。
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