■ なぜ

『島の裏側の海上に移動する。沖津風、頼んだ』

「また飛ぶのか」

もう慣れたのか、何食わぬ顔で空中に浮かぶベックマン。

沖津風の文句を軽く受け流しながら私は続けた。

『危険な技も使う予定だからな』

昨晩より高スピードで移動する。

昨日より瞬歩も楽にできる。

このスピードに合わせてベックマンを運んでいるので、かなり風圧があると思うがそれくらいでベックマンは文句は言わないだろう。


裏側に付き、霊子の足場を一面に広げる。

そこに降り立つと、沖津風にはベックマンを浮かべたままにしてもらう。

『ベックマン、大丈夫か?』

「移動が早いな。驚いたぞ」

普段と変わらぬ表情で言われてもなんの説得力もない。

これからおこなうのは、私の1/5の力での即戦力の鬼道を試すというもの。

海上とはいえ、さすがに音などが響くと思うので結界を張っておく。

『縛道の七十七、倒山晶』

外側から内部が見えなくなる結界を広範囲に貼る。

音が響かないようにさらに霊圧でコーティングを重ねておく。

縛道の感覚は尸魂界と変わらないようだ。

『ベックマン、うるさいかもしれないから、耳をふさいでおく事を推奨する』

「そうか、状況に応じて考えるさ」

ライフルを打つベックマンにとっては余計なお世話だったかもしれないな。


とりあえず思いつくものを言っておく。


『破道の四、白雷』

人差し指の先から一筋の光線が伸びる。

『破道の三十一、赤火砲』

昨日とは違い、爆発的な炎が手のひらから発射される。

『破道の三十三、蒼火墜』

手のひらから青い炎が放たれる。
これはルキアがよく使っていたな、と少し懐かしくなる。

『破道の六十三、雷吼炮』

強力なエネルギーを帯びた光線を手のひらから放つ。

『破道の七十三、双蓮蒼火墜』

両の手のひらから蒼火墜の強化版の炎を出す。


すべてが放たれたあとの海上は水蒸気をあげている。

くるりとベックマンの方を見ると、目を見開き口は軽く開いていた。

珍しい表情ではないのだろうか。

映写機があればすかさず向けていたことだろう。

『なんだ、その顔は』

先ほどベックマンから言われた言葉と同じものをベックマンに向けると、目を閉じ、ふっと笑われた。

「凄いな、碧は」

『私など、尸魂界では10の指に入るかどうかだ。まだまだ上はいるんだ』

沖津風を使おうかと思ったが、沖津風の能力はそこまで周りに影響を与えないので一旦森に戻る。


森にたどり着き、ベックマンと向かい合う。

沖津風が具象化して現れる。

“碧、この男に鉄砲を撃ってもらえばいいのでは?”

鉄砲ではなくライフルだがな、と訂正するベックマン。

『なるほど、そうすればライフルのベックマンと修行を行うことができるな』

「女に撃つのは気が引けるな」

そう言いつつライフルを構えるベックマン。

『嘘つけ』

にやりと笑い、沖津風を抜く。
そして解号を言う。

『吹け、沖津風』

立っている場所から2mの範囲に風が吹く。

始解した状態の沖津風は大きさは変わらないが、刀身が漆黒になる。
柄の色は海の色になり、鍔がなく、代わりに白い紐が巻かれている。

振るたびに白い紐が揺れる。

『守れ』

そう言って沖津風を構えた瞬間、ベックマンのライフルから弾が発射される。

凄まじい速さの弾が目の前で停止する。

守れの解号で周囲に風の壁ができるのだ。

『散れ』

するとその弾は塵になって消えてゆく。

散れの解号でその風に触れたものは風化してしまうのだ。

始解を解除し、鞘に収める。

『これで私の力量は分かったと思うが』

「ああ十分だ。しかし、この力に加えて悪魔の実の能力もあるのか。すごいことになるな」

忘れていた。

『私の能力はなんなのだろうな』

「さあな、大丈夫さ。俺らがついているからな」

その言葉に少しどきりとする。

この感覚、なんなのだろう。
感じたことがない。

『あ、ああ。ありがとう』

帰りはどうするかと聞くと、能力は使わなくてもいいという。

「ゆっくり話したいからな」

煙草の火をつけ、煙をくゆらせる。

少し微笑むその顔を見ると、なぜかこちらも微笑みそうになる。

私たちは少し火照った頬に手を当てながら、歩いて町の方へと帰りはじめた。

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