■ 飛んではじまる

目が覚めたら、視界には何もない空間が広がっていた。

『ここは…』

眠くもないのに目をこするが、視界は一向に変化しない。

なんていうか…寂しい。

あたりを見渡しても視界にはなにもない。

どこに立っているのかも分からない。

第一立っているのか浮いているのか、それすら分からない。


“目が覚めたようですね”


耳元で優しげな声が響く。

男性の声だ。


ハッとして振り向くと、そこにはとても優しい顔つきの男性が立っていた。

髪の毛は漆黒で背が高く、黒い着流しを着こなす様子はどこか懐かしさを感じさせる。


『お前は』

“私は沖津風と申します”


沖津風…何故だろう。聞いたことがある。


『私は、どうしてここに?』


沖津風は笑った。

“あなたは飛ばされたのです、碧”

わけがわからない。

不審がっていると分かったのか、沖津風は困ったように首をかしげた。


“あなたは、前の世界から飛ばされてきたのです。思い出してください”


飛ばされてきた?

そうだ、思い出してきた。
私は尸魂界という場所で暮らしていた。

私は護廷十三隊の死神だった。

薄れていた記憶がはっきりとしてくる。

私は今の姿を見た。

黒い着物はぼろぼろで、先程まで戦っていた形跡が残っている。

沖津風は私の斬魄刀だ。

魂の分身ともいえる沖津風を忘れていたなんて。


“あなたには前の世界から存在自体が飛ばされてしまったのです”

沖津風は悲しそうに笑って下を指さした。

すると今まで何もなかった無の空間が、真っ青な空間に変わっている。

『ここは、空中?』

空中に立つのが懐かしく感じる。
私はこの感覚を知っている。

“下に広がっているのは海です”

遠くに島が見える。

どうやらとある世界の海上のど真ん中に浮いているようだ。

『私はどうすれば?』

沖津風は笑った。


“ただこの世界で生きていけばいいのです”

『それだけ?』


沖津風は何も言わずに微笑んでいる。


“ここの世界での通貨はベリーと呼ばれているようです。碧が寝ているあいだに少し島の中を覗いてきました”

『さすが私の斬魄刀』

沖津風は少し照れたように笑った。

“そしてこの世界には海賊がいました。それを取り締まる海軍も同様です”

黙って聞いた。

“そして悪魔の実と呼ばれる果物を食べると、不思議な力を持つといいます”

『悪魔の実…か。私が食べることはなさそうだね』


沖津風は島の方向を向いた。


“碧、まずはあの島へ向かいましょう。死神の力は使えますか?”

『なんとかね、でも空中に足場を作っていくには霊圧が足りないみたい』

“ならば私にお任せください”

沖津風は優雅に一礼すると風を生み出し、私を運んだ。

風の力を司る沖津風にとってはこれくらい朝飯前らしい。




[ prev / next ]

back

×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -