■ 対話
私はあまり宿から離れ、森の奥へとすすんだ。
どちらかといえば町中よりこちらの方がまだ安心だ。
ゴロツキがあまりいないこともあるし、ここは月の光がよく差し込んでくる。
私は適度な岩を見つけると、その端に沖津風を立て掛けた。
毎日のように行っている、斬魄刀との対話というものだ。
これならば沖津風が具象化する必要がなく、負担をかけなくて済む。
目を閉じ、沖津風に呼びかける。
『沖津風、白哉とルキアはどうなったと思う』
私は一番気になっていたことを沖津風に尋ねてみた。
“私には分かりません。ただ、私が最後に見えたのは橙色の髪の毛です”
『それって、一護のこと?』
“おそらく”
私は笑った。
一護の力は計り知れない。
もしかして、尸魂界を救ってくれたのかもしれないな。
しかしそれを確かめる術は私にはない。
『戻りたいな』
本音が出るが、沖津風はそれを黙って受け入れてくれた。
『あのときの市丸の刀傷、心配だ』
「白哉なら大丈夫でしょう、あなたもよく知っている筈ですよ」
『そうだね』
白哉の姿を思い浮かべる。
そうだ、白哉なら大丈夫。
朽木家当主なのだから。
考えがすこしまとまり、心の中で安堵した。
一旦対話をやめ、食事をしようと目を開く。
横に置いてあった果物が入った紙袋の一番上にあった奇怪な模様の果物を手にとった。
あまり美味しくはなさそうだ。
パンをちぎりながら口に運び、果物を眺める。
渦巻き模様だと思っていたが、唐草模様に近いもののようだ。
匂いを嗅ぐが、特に異臭はしない。
第一、市場に出回るということは少なくとも食べられないことはないのだろう。
“食べるのですか?”
沖津風が具象化して目の前に胡座をかく。
『折角特別に貰ったものだから、食べなければ勿体無いだろう』
“美味しいか美味しくないか、賭けませんか”
沖津風は笑う。
おそらく賭けるというのは冗談だが、とりあえず乗ることにした。
『美味しいと思う』
“それでは私は美味しくない方に”
思い切ってかじる。
一口飲み込むと顔を歪ませた。
“どうやら私の勝ちのようですね”
反対に沖津風は顔を綻ばせた。
『食べられないことはないんだけど、不味い』
別の果物を手に取り、かじると口に甘味が広がった。
飲み込み、パンをちぎろうとしたときだった。
足音が聞こえ、咄嗟に沖津風を佩刀する。
『誰だ』
暗闇に向かって声を出す。
町の方向から現れたのは、阿散井のような鮮やかな赤髪をもつ男。
その後ろからは浮竹隊長のような白い髪に京楽隊長のような癖毛の男も現れた。
タバコをくわえている。
「おいおい警戒するなって!」
「お頭、まずは俺らが攻撃しないという意思を見せないと警戒は解けそうもないぞ」
私は二人を睨みつけた。
『先程宿にいた者か?』
「そうだ、俺は赤髪海賊団船長のシャンクスだ」
赤髪の男は笑う。
相手からは殺気は感じられない。
沖津風の柄から手を離すと相手を見て出方を伺った。
「俺は副船長のベン・ベックマン」
白髪の男はくわえていた煙草を口から離し、煙を吹く。
『私は、朽木碧』
赤髪の男、シャンクスは嬉しそうにこちらへ近寄ってくる。
危害を加える気配は感じないので、とりあえずは相手の出方を見るようにする。
「よろしくな!早速だが、お前宿に泊まりたかったんだろ?」
『え?あ、ああ』
「お頭はお前が気に入ったらしく、宿に泊まって欲しいんだと」
白髪の男、ベックマンは困ったようにシャンクスを眺める。
その白髪は苦労のせいなのだろうか。
『しかし宿は貸し切ってあったはずだろう』
「船長である俺が許可する!」
シャンクスは胸を張って言う。
その目はとても純粋で、嘘をついていないことがわかる。
その純粋さに、少し笑いが出てしまう。
『それは、ありがたい』
キョロキョロと周りを見渡す。
立ち話もなんだから、早速宿に行くとしようか。
紙袋に果物を詰め直し、立ち上がる。
腰に沖津風を挟み込むと二人を見た。
『私には海賊のことはわからない。しかし私はあなた方を信用します』
丁寧な言葉遣いで言うと、二人は驚いているようだった。
「ああ、碧がそう思うのなら、信用してくれ!」
「…ったく、お頭は。ところでお前は旅の剣士なのか?その刀の形状はあまり見たことがないが」
沖津風は具象化していないが、少し嫌そうな声を漏らす。
“気に食わないですね”
『(そう言わないでくれよ)』
ベックマンの言葉に答える。
『ただの刀ではないからな』
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