■ 助けて軍師様っ!
「お主は何をやっているのだ」
聞きなれた低い声。
私はぱっと後ろを振り返った。
そこにいたのは色素の薄い髪を片側に流した男、ナルサスがいた。
私の目の前にあるのは真っ黒にこげた鍋。
もちろんなかには料理(であったもの)が入っている。
ちなみに卵料理を作ろうとしていた。
『た、卵料理を』
今はエラムがいない。
エラムは下町に買い物に出ているのだ。
すぐに帰ると言われたが、今まで料理をやったことがなかった私はこの機会に挑戦してみようと思ったのだった。
それがこのざまだ。
「それは、食べ物なのか」
『見えます?』
「見えんな」
『ですよね!』
私は困ったように笑った。
エラムはぱっと作ってしまう。
その手際を真似したつもりだったのだが、何を間違ってこうなってしまったのだろう。
「お主には食べ物をごみに変える力があるのか」
『なにその力、いりません』
「ならばこれはなんだ」
私はうっと言葉をつまらす。
『ナルサスに美味しい料理を食べて欲しいと思ったんだけど、ダメだったみたい』
正直に謝る。
ナルサスは少し表情を緩めると、少し笑った。
「分相応でないことをするものではない。どれ、俺がやってみよう」
別の鍋を戸棚から取り出し、ナルサスは腕まくりをする。
おお、これは期待が持てそう。
……30分後
『なにこれ』
「シチューだ」
『嘘でしょ』
紫色の何かが私の目の前にあった。
何を入れたらこんなに鮮やかな色になるのだろうか。
「俺の自信作だ」
『ナルサス、分相応じゃないことをしちゃダメだよ』
ナルサスは私を睨む。
「うるさい、食べてみれば美味いかもしれんだろう」
ナルサスは小指をシチュー(らしきもの)につけ、ぺろりと舐めた。
すぐにその顔が青くなる。
うっと口を押さえるナルサス。
私は一歩引いた。
『私たちはなんと愚かなものを生み出してしまったのでしょう!』
私は頭を押さえた。
これをエラムに見られたら、怒られるどころでは済まない。
エラムが帰ってくるまでに処分しなければ。
『ナルサス!ナルサス!手伝って!これをなかったことにしよう!』
「も、もうすこし回復に時間がかかる」
ナルサスは水を口に含みながら項垂れた。
私は異臭を放つ紫色のシチューと黒い卵料理の鍋を抱え外に出ようとした。
その時だった。
「ただ今帰りましたナルサス様、○○」
エラムと目が合う。
エラムが私の手元に視線を移す。
『あの、これ』
「ナルサス様、○○、どういうことか説明してもらいましょうか」
助けてナルサス!
そう思ってナルサスを見ると、ナルサスはドヤ顔で言い放った。
「それらすべて○○が作ったのだ」
『は、はぁ!??』
エラムを見る。
その目を直視できないまま私は説教を受けたのだった。
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