納谷くんって意外と喋るんだな、と彼の腕の中で現実を逃避するように思った。どんどんほだされていっている気がする。
「ねぇ、いいでしょ…?」
甘く甘く、耳元で囁かれた。俺は腕の中から出ようと動いてみるけど、彼の細い腕からは想像できない力で押さえつけられた。俺は仕方なしにそのまま納谷くんを見上げた。顔が近くてなんか気まずい。
「お、れは。俺のものだし、納谷くんのものにはなれない、よ」
俺は言葉を濁しつつ言った。納谷くんの深い色をした瞳が怖くて、俺は納谷くんから目をそらした。
納谷くんの腕に力が入る。俺は眉を寄せた。
「何で?向井だって、俺のこと好きでしょ?」
「へ…?」
俺は再び納谷くんを見上げる。俺の今の言葉から何でそんな考えに到ったんだろう?
ぽかんとする俺に気づいたのか、納谷くんは笑みで話し出した。
「だって、向井は俺にノートとか配るときはいつも声をかけてくれるでしょ?他にはかけてないのに、俺にだけ…」
妖しい笑みを浮かべた納谷くんに、俺は何か危険を感じた。俺は慌てててもがく。納谷くんの腕がぱっ、といきなり離され、俺はバランスを崩して倒れた。
納谷くんが俺を見下ろす。俺は尻を地面につけたまま後退った。
「どーしたの?」
ニヤニヤニヤニヤ、俺は納谷くんの笑顔が異様に怖かった。
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