ペタペタ。
足音が、俺のすぐ横で止まった。
俺は出来るだけ意識をしないようにする。しかし、心とは裏腹に、額と手に汗が滲んだ。



「杉田」



びくり、と情けない事に俺の肩は吉國の言葉に酷く反応した。
てか、俺の名前知ってるんだ。



「ねぇ、杉田」



俺はやけに緩慢な動作で上を見る。
綺麗な顔が、すぐそこにあった。一瞬怯むが、なんとかその顔を見つめ返した。



「な、に…?」



アーモンドの形をした瞳が、綺麗に細まる。瞳の奥が笑っていた。



「あは、はは、杉田。ねぇ、読んでくれた、ねぇ」

「は、」



何を、言ってんだ。
益々深まる吉國の笑顔に、俺の恐怖は増した。
更に近づいた顔に、俺は後退る。



「て、が、み。毎日、あげてるでしょ?」



てがみ。
頭を鈍器で殴られ、衝撃を受けたような、そんな感じ。目の前がグラリと揺らぐような感覚を覚えた。

確かに、手紙は読んでいる。しかし、何故手紙の存在を知っているんだ。

わからない事だらけで、開いた口がふさがらない。



「読んでくれたんでしょう?あは、嬉しいなぁ。俺の気持ちは伝わった?」



手紙の犯人は、目の前にいるこいつだというのか?
なんのために?答えなんて、とっくに出ていた。
しかし、にわかに信じがたい。



「俺もう我慢出来ないよ。だからこうやって…」



吉國の手が俺の頬に触れる。
逃げられないような、そんな気がした。








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