とりあえず、首の痣は服で隠せないので包帯を巻いてみた。
そこそこ目立つが、赤紫色にぼんやり浮かぶ手形よりはましだ。
母に聞かれたら、適当な嘘を吐こう。出来れば嘘など吐きたくないが、この痣が出来た原因を知られるよりましだ。
朝が来て、母さんは早くから仕事だったらしく、食卓の上にはラップをかけられた食事があった。
義父と義兄は既に食事をとっていて、空気が鉛のように重たい。
とりあえず、いつも使っている椅子に掛けて食事を始めた。
蚊の鳴くような声で「いただきます」と言ってから箸を手にとった。
誰一人喋らない中、三人とも黙々と食事を口に運ぶ。まさに葬式みたいだ。
全く味のしない飯を胃に詰め込んで、俺はさっさと席を立った。
今この家に俺の安全は無いと言ってもいい。義父も義兄も、敵だ。
「輝彦くん、いってらっしゃい」
「……」
俺は義父の変わらない笑顔を見て、眉を寄せる。
あんなことをしておいて、白々しい。俺は返事を返さずに家を出た。
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