会長に言われた通り、俺は生徒会役員の名前を覚えるのに勤しんでいた。
会長が、宝来慎之介で、副会長が、……副会長が……。



「あれ…?」



全然出てこない。
こないだ会った、書記は花家、会計が二又、副会長は……。
何故か、一文字目すら出てこない。たぶん、一番面識が無いからだ。
名前が出てこない理由が判明しても無意味なので、俺は顎に手を当てて考え出した。



「と、"と"がいっぱいあった気がする…」

「……こんなところで何をしているんですか」



俺がでかい独り言を溢していれば、頭上から何か声が聞こえた。
声に目を向ければ、今まさに考えていた人物がそこにいた。
珍しく取り巻きを一人もつけていない副会長は、俺を見ると不愉快そうに眉を寄せていた。



「何を独りで喋っているんです?気味の悪い…」

「あ、ちょっと待って下さい」



本人を目の前にして、俺の頭は冴え渡った。
そうだ、この人の名前は…。



「藤堂琉聖!」

「は、はい?」



思わず大声で副会長の名前を呼べば、びっくりしたような表情を浮かべ、返事を返してくれた。どうやらあっているらしい。
俺は、自分の記憶力が向上している事実に喜びを感じて、いつもとは違うニッコリとした笑顔を浮かべた。
いつもの笑顔はニヤニヤだから、大分ニュアンスが違う。



「あ、俺はこれで失礼します」

「え、あ…はい」



俺は妙に浮かれた気分で副会長とは反対方向へ歩き始めた。
今日はあんまり嫌みを言われなかったな、と呑気な思考を巡らせながら。








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