「お前、告白されたんだってな」



安孫子にはすっかりお馴染みとなった中庭で、突然そんなことを言われた。
何で知っているんだろう、という考えが浮かぶ。俺が告白されたと知っているのは俺と、彼女と、上林ぐらいだ。
どこで仕入れた情報か知らないが、俺は戸惑いがちに頷いた。
すると、安孫子は言葉になっていない声を何回かあげて、不自然に見えるほどにっこりと笑った。



「よかったな、吉永。彼女が出来たんだなここれで童貞も卒業だ。な?」

「ちょ、ちょっと待って。安孫子は何で俺が告白受け入れる前提で話してるの?」

「だってお前昨日…あ」



安孫子は自分の失言に気づいたのか、ばつが悪そうに俺から目をそらした。
「安孫子、俺と上林の会話聞いてたんだろ」
なにも言わない安孫子に、図星か、と俺はため息をつく。



「俺、付き合わないよ」

「……は?」



安孫子がポカンと間抜けな顔をした。そして、納得がいかないように口をひらく。「だってお前…昨日付き合うって…」
確かに昨日、俺は上林との会話でそんなことを言った。しかし、俺は昨日の夜寝ないで考えたのだ。



「俺、知らないんだよ」

「…何を?」

「あの子の名前」



告白してくれた、あの子の。
流石に名前も知らない子とは、付き合えそうも無かったのだ。








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