「……たの……で…」



白鳥さんの口が動く。ゆらりと立ち上がった彼女がこちらに近づいてくる。
周りの生徒が退いていく中、俺だけは動けなかった。

白鳥さんの顔がわからない。
ぼんやりと浮かぶ白いそれが、酷く不気味で、俺の背中に冷たい物が伝った。



「あんたのせいよ!!」




耳を劈くような悲鳴が、辺りに響いた。
彼女が俺の首に掴む。急速に足りなくなる酸素。噎せかえりそうになるが、それすら許されない。
俺に乗り掛かる彼女をなんとかしようともがいてみるが、彼女の力は予想より遥かに強く、俺は足をただ動かしただけだった。



「タクミ!止めろ!!」

「っ!どうして!?なんで私じゃないの!!?」



慌てて止めに入った間野が、白鳥さんの肩を掴んだ。白鳥さんは歪みきった顔で再び間野にすがった。
望んでいた酸素を急いで取り込むように俺は噎せかえる。
彼女の鳴き声が辺りに響いた。



「私はこんなに好きなのに!!」

「……ごめん」



くしゃり、と間野の服を掴んでいた手が弱々しく離される。



「………もう、いい。
あんたなんて、こっちから願いさげよ!!」



バッチーン!!

と、間野の頬をビンタした白鳥さんは教室から走り去っていった。
いい音がしたが、あれは痛いんじゃないか?
突然の展開についていけない俺は尻餅をついたまま、間野を見上げていた。女心は本当に変わりやすいんだな、とか思いながら。
そんな俺に手を差し出した間野は、とてもいい笑顔を浮かべていた。



「もう、大丈夫だから。ごめんね、迷惑かけて」








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