安孫子が目を覚ましたのは、なんと昼休みだった。
午前の授業などそっちのけで惰眠を貪る背中を見ていると、何故かしょっぱい気持ちになった。
ゴキゴキ、と関節を鳴らす安孫子は席から立ち俺を見下ろした。
あ、今渡せるじゃん。
俺は鞄の中に潜ませたそれを取り出す。可愛らしいラッピングは、俺には不似合いだ。



「安孫子!」

「んぁ?」

「これ、」



俺が差し出したそれを見て、安孫子は訝しげな表情を浮かべた。
その顔に、俺の心臓は早さを増す。



「昨日のお礼なんだけど。…あのいらないなら、」



俺の言葉を遮るように、安孫子は俺の手の中にあるクッキーを引ったくった。
まじまじとそれを吟味するように眺めるものだから、俺は居たたまれない気持ちでその光景を眺めていた。



「手作りか?」

「…うん」



ほぼ母さん作だけど。そんな言葉は呑み込みつつ、安孫子の言葉に頷く。
「ふーん…」安孫子は呟くと、アイドル顔負けの笑顔を浮かべた。安孫子の周りだけがやたらと輝いて見える。思わず目を細めると、安孫子の大きい手が俺の頭を包み込んだ。



「さんきゅ、大事に食うわ」

「っ…うん、……」



その、嬉しそうな笑顔に、俺の心臓は小さく悲鳴をあげた。
なんかもう全てが格好よくて、ずるい。








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