「……だれ、あんた」
俺と目を合わせた安孫子は、開口一番これだ。
何故どいつもこいつも、クラスメイトである俺の名前をしらないんだ。
思わず渋い顔をしてたら急かすように安孫子は呟く。
「誰?」
「……吉永です」
「で、その吉永は何してんだここで。とっくにチャイム鳴ったと思うけど」
「え」
チャイムが鳴った事を知らなかった俺は素直に驚いた。
今から教室に行っても、皆の注目を浴びるだけだし、出来れば行きたくない。けどサボるのもどうかと思ってしまい、腕を掴まれていることも忘れて俺は何かいい案が無いかと考えた。
「あんなデッケー音気づかなかったとか」
くつくつ喉で安孫子は笑う。かなり様になっていた。
何故笑われているのかわからず、俺はきょとんと首を傾げる。安孫子は急に笑うのをやめると、俺の腕を引いた。不意打ちに、俺はバランスを失って安孫子に倒れかかった。良い匂いがする。
「俺は安孫子蓮だ。よろしくな?吉永」
「……よろしくって……安孫子くん、俺らは同じクラスだよ」
二年生でのクラス替えから、既に5ヶ月。今は9月で、流石にクラスメイトの名前くらいは覚えてて良いはずだ。
二日にして、自身の存在を全く把握してない人間に二人も会うとは。更なるショックを俺は受けた。
半ば呆れながら俺が言うと、安孫子は「マジで?」と呟き、心から愉快そうに目を細める。こいつ性格悪そうだな。
「そんな顔すんなよ。あともう他人じゃないんだから"くん"はやめろ」
くしゃりと俺の頭をかき回す。
…他人だろうが、俺たち。
じっとりした目で見つめれば、安孫子は何を汲み取ったのか、方眉を上げて笑顔を浮かべた。
「…他人なら、こんなに密着しないだろ?」
「ぎゃっ」
安孫子にもたれ掛かっていた体を、抱きすくめられる。にわかに鳥肌がたったのは言うまでもない。
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