『ストーカーと接触してしまったら、下手に相手の感情を逆撫でず、話を合わせることが重要です。それから――――』
女優のストーカー被害の話から、いつの間にかストーカー対処法になったテレビを聞き流す。司会者の犬面を一瞥してテレビを切った。
俺なんかにストーカーなんてつくはずないから、違う番組を見ればよかった。
ぼんやり頭で考えながらコートを羽織る。
時刻は23時すぎ。小腹が空いたので、俺はコンビニに向かうことにした。
コンビニで買った物を引っ提げて、俺は比較的に軽い足取りで夜道を歩いていた。
後ろから足音が聞こえた。
カツカツ、と俺の音と混じって。
最初は気にしなかったが、十分以上立っても足音が消える事はなくて、次第に俺は焦り始めた。気味が悪い。
少し足を早くしてみた。後ろの足音も早さを増す。
確信した。
ついてきてる。
俺は走った。
あまり早くはないが、しないよりはましだ。無我夢中で走り、家の目前で足を止めた。
周囲を見渡す。
どうやら、ついてきてはないらしい。安堵の息をもらし、俺は足を進める。
その時、いきなり伸びてきた手により、俺は殴られ気絶した。
目を開く。
見慣れた天井に、俺の感覚は徐々に覚醒していった。
(確か俺はコンビニに行った帰りに、……。)
慌てて飛び起きる。
辺りを見渡せば顔の綺麗な男がすぐ脇に座っていた。
誰だよ、こいつ…。
「あ、目が覚めたんだね。よかった…少し力を強くし過ぎたみたいだったから」
俺の頬を撫でながら、イケメンは恍惚といった表情でそういった。途端、俺の背中が粟立つ。
こいつ、ヤバい。
ふと、頭を過るのは先ほどテレビで見ていた犬面だった。
『…――感情を逆撫でず、話を合わせる―…』
いや、でもこいつがストーカーと決まったわけじゃない。もしかしたら、倒れていた俺を運びに……いや、なんで家知ってるんだよ。
考えれば考えるほど、思考はダメな方に運ばれて行く。ダメだ、頭が痛い。
「貴士ってばメールも電話も無視なんだもん。本当に心配したんだから。でも元気そうでよかった…」
なんで名前知ってるんだ。
確かに、最近知らない番号からの電話や気味が悪い内容のメールが頻繁に来ていた。迷惑メールだろうと思って無視していたが、まさか全部こいつの仕業だったのか?
ストーカーが自分につく事なんてないと思っていたのに、正にその日にストーカーと接触してしまうとは。
「あれ、貴士どうしたの?何か怖いことあった?ねぇねぇ、」
お前が怖いんだよ。
なんて、声には出せなかった。
口の中がカラカラに渇いていて、不愉快だ。
思い浮かぶ犬面。『話を合わせる』
――そうだ。
「だ、いじょうぶ。メール返せなくて、ごめんな」
俺が話を合わせて返事を返せば、イケメンは嬉しそうに頬をほころびる。
犬面が言っていた事は間違ってなかったらしい。
「ううん!いいんだ、その言葉が聞けて安心したよ」
ぎゅう、と慈しむような優しい抱擁。耳元に感じる息づかいは女に対するそれと同じだった。
気持ち悪い。
「けど、」
地を這うような低い声。
嫌な予感を刺激され、俺の体が震えだす。
「嘘はダメだよ?ねぇ、貴士?」
優しい抱擁は一転し、力強く抱き締められた。五臓六腑が締め付けられるような、息苦しさを感じた。
「だってだって、貴士が僕を知るはずないよ。僕は見てるだけだった。だからだから、貴士は嘘吐いた。嘘つき。…あぁ、そっか。さっきのテレビに影響されたんだね、貴士は流されやすいから…」
こいつが何を言っているかなんて、とっくに俺の耳には入らない。
(…なんだよ、言ってることと全然違うじゃん)
犬面を思い浮かべ、俺は何かを諦めたように目を閉じた。
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自分がストーカーだと自負するストーカー
無駄に長くなりました
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