不良の森は人気者だ。不良だけど、便りがいがあるから、人気者。
だけど森には怖い噂もたくさんあった。だから、俺は森には近づけないし、好きじゃないし頼っても慕ってもない。
そんな、誰よりも森に無関係な俺が何でこんな。

見上げた高そうなマンションに思わずクラクラした。担任から手渡されたプリントを恨めしく睨む。
今日は森が休みだった。俺にとっては、静かな平和な日だった。
それが、森と家が近いと言うだけで崩れ去ったのだ。
森はこの最近出来た高級マンションに越してきていたらしい。担任に言われて今日はじめて知った。
担任に渡されたメモ紙によると、森の部屋は15階の3号室らしい。
どんだけ高いとこに住んでんだよ、と俺はため息をもらした。
マンションに入り、何やらここからでもインターホンの様なことが出来るらしい。
俺は森の部屋番号を押して、数秒待った。



『はい』



モニターに森の顔が映る。俺は慌てて喋りだした。『あの、プリント届けに来たんだけど…』俺の言葉を聞いた森が『今開けるから』と一言残し、そのままモニターは真っ暗になった。その代わり、閉じられていたガラスの扉がウィーンと開き始めた。

やけに広いエレベーターに乗り込み、俺は一つ不安を覚えた。
森が俺なんかを覚えているだろうか。
俺は地味な上に、森とクラスで一番接点がないと言ってもいいだろう。知らないやつが突然家に来たら軽いホラーだよなぁ、とか考えていたら、いつの間にか15階についていた。

森が暮らしている、3号室の前に立つと、内側から扉が開かれた。
そこには少しやつれた森が立っていた。冷えピタ貼っていて、スウェット姿の森は、普段のきまっている森よりもかなり親近感がわく。



「とりあえずあがって」



カサカサの声で言われ、俺は素直に頷くと部屋に足を踏み入れた。

中は思った以上に広く、きれいに整頓されていた。森はお茶を片手に俺をソファへ誘導した。
俺は素直に応じ、そのまま腰かける。森も隣に座った。



「か、風邪、大丈夫?」



沈黙になると気まずそうなので、俺は取り敢えず話しかけてみた。森は話上手だし、話題をふればどうにかしてくれるだろう。「朝よりだいぶ調子いいよ。山崎は先生に頼まれたの?」俺は頷く。ちゃんと俺のことを知っていて少し安心した。



「うん、そうなんだ」

「なんかごめんね」



森は困ったように笑った。なんか、噂みたいな怖い人ではない気がした。
「でも、俺山崎と喋ってみたかったんだ」森の言葉に驚く。森みたいな人気者は俺みたいな地味男は眼中にないと思っていた。
内心嬉しい俺は「俺も」と思わず言ってしまった。実際は嘘だが、こんな嘘は許されるだろう。森も嬉しそうだし。



「じゃあ、俺ら友達だね」



俺はえ、と思う。けれど森はニコニコ笑っていて、断ったり出来る気がしない。



「え、と。うん、よろしく」



俺は了承してしまったのだった。


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