「これは…」



ふわふわのレースに大きいリボンが特徴のメイド服。
如何だろう。これを、友人宅で見つけた時の気持ちは。
戸惑っていないと言ったら、嘘になるだろう。

しかし、あれか。これは、あいつが着るのか?
女子が騒ぎ立てる程の男前なあいつが。あの精悍な顔立ちがこの服を着ていると考えたら少し笑える。
ご丁寧に黒髪ロングのウィッグまでついているし、サイズだって女ものよりはでかい。けれど、体格のいいあいつの体が収まるとは思えな「な、何してんだよ…」

「あ」



ペットボトルを二個もったあいつが、顔を青白くさせて立っていた。いつの間にいたのだろう、まったく気が付かなかった。



「…これ、お前が着んの?」



少し苦笑いながら聞けば、そいつはそんなわけないだろ、と言って眉をひそめた。そんな顔すんなよ、と笑いかけてもその顔が崩れることはなかった。
怒らせたか?なんてあいつがどう出るか見守っていると、何かを決めたような表情を作って、俺に歩み寄ってきた。



「これは、お前のために買ったんだ」

「へっ」



真剣な顔が近づいてくる。こ、怖い怖い怖い。
そもそも、俺のために買ったって、なんだ。



「カツラも買ったけど…俺的には無いほうがいいと思うんだけどどう思う?」

「どうと言われても…」



そもそも着たく無いんだが。
と、言ってやりたかったが、友人の真面目すぎる顔を見ていたら口に出来なかった。



「なぁ、着てみてくれよ」

「えぇ……」

「お願い」



首をかしげても全く可愛くない友人の顔を見て、俺はどうするべきか悩んだ。
着たくは無い。
無いのだけど、友人に頼み事をされたのが、これが初めてなのだ。



「ダメか…?」



だめ押しの一言。
俺は渋々、本当に不本意ながら頭を上下した。
にわかに輝く友人の笑顔。今のは少し可愛いげがあった。



「よっしゃ!じゃあ今すぐ着てくれ!」

「う…うん」

「あ、女物のパンツもあるから」

「は」



初めて友達に騙されたと感じた。



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女装してほしい系イケメン
残念だ…








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