東山は『神がかった不良』なんていう大層な通り名があるほど札付きの悪だった。
そりゃもう、悪い噂は数えきれない程あるし、顔だって整っているわりには極めて凶悪な表情を浮かべていた。
それに比べて俺。平凡を絵に書いたみたいな、秀でた印象を持たせる事のできない容姿。特に面白いエピソードなんてない。話術もそこそこ。詰まる所のない男だ。

そんな俺と東山の接点と言えば、同じ学校、これに尽きる。
喋った事も無いし、ましてや目立たない俺を彼が知るはずない。



「好きだ」



…はずないんだ。

目の前の人物に目眩すら覚えてしまう。まさか、俺の目の前に『神がかった不良』が現れるなんて誰が思うよ。少なくとも俺は微塵も予想してなかった。
そして、この一言だ。目眩を通りすぎて吐きそうだ。



「お前が好きだ、西川」



あ、西川というのは俺なんだけどね。こんなにも自分の名前にムカついたのは初めてだ。
愛を囁く東山は、俺の性別間違ってるようにしか思えない。平凡な俺は特に少女のような見た目をしている事も無いので、間違えようも無いんだけど。



「俺と付き合え」

「それは無理です」



俺は思わず淀みすらない声色で断りを入れていた。
だって、男と付き合いたくないのだ。それなら断ったという理由でタコ殴りにされた方がましだ。

殴られる準備万端で目を瞑っていたら、やけに耳に響く音。



「…ズズ、……」



鼻を啜る、その音。

……、マジかよ。

目の前の『神がかった不良』は顔を赤くして泣いていた。いつものギラついた視線なんてなくて、あるのは目元を濡らす涙だけだ。
一生懸命目を擦る姿に、近所に住んでいる子供を思い出した。

思わず、手を差し出したくなる。

気づけば、俺はその人の涙を自分の手で拭っていた。
吃驚したように見開かれた切れ長の目からはまた新たな涙が溢れた。



「な、泣くことないじゃないですか…」

「好きなんだ……」



涙を拭っていた手を掴まれ、先ほどと同じことを言われた。
ため息を呑み込みつつ、俺は口を開いた。



「………友達からじゃダメですか」

「!」



涙に絆されるなんて俺も大概だな。嬉しそうに笑う東山は、年相応に見え、またもや絆されそうだと頭の片隅で思って俺も笑顔をもらした。



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泣き虫な不良とか萌えませんか…








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