お昼休みの事だった。友人山田と共に昼食をとっていたら、俺に近づく一人の人物。
田中祐介
女子からの人気がやたらと高い奴と俺の接点と言えば同じクラスという事以外何もない。
そんな田中が俺に近づいてきたのだ。食べる手をとめ、綺麗すぎる顔を見上げた。何を考えているかわからない顔が視界に入る。友人山田は気にしていないのかタコさんウインナーをずっとつついている。
「広瀬、ちょっといい?」
田中が話し始めると、にわかに教室がざわめき出す。俺に向けられた視線の冷たさに苦笑いすら出ない。
まさかの田中からの呼び出しで俺は山田に目配せをした。が、奴の視線はタコさんウインナー一点だ。つまり目が合う事すらないという訳なんだけど。
「広瀬?」
「ん?あぁ、うん。…ここじゃダメなのか?」
正直こいつと二人っきりとか体がもたなそうなので、俺は提案してみる。田中は困ったように目を泳がせたあと口を開いた。
「…ここじゃあ、ちょっと…」
…なんで頬染めてんだこいつ。
田中の初々しい反応に、女子が沸き立つ。目をガン開きにした女子が怖すぎて俺は思わず床に視線を落とした。薄情な友人山田はタコさんウインナーを食し終わったのかひたすら米を口に含んでいる。
なんだ、この空気は。
「…うん、わかった。じゃあ行くか」
早くこの異常な空気から抜け出したくて、俺は田中の手を持ち駆け出した。
暫く走って、人気の無いところに来た。
上がる息を整えていると、後ろに立っていた田中に肩を掴まれた。田中の綺麗な顔は赤く染まっていて、走ったからだろうかと最初は思ったがどうやらそれだけじゃないらしい。
やけに近い顔、俺は目をキョロキョロ泳がせた。下手したらキスが出来そうな距離に、俺は息を止める。
「広瀬、」
熱を孕んだ色っぽい声で呼ばれる。
なんだこれ。俺が女なら泣いて喜ぶようなシチュエーションだが、生憎俺はご存じの通り男なので鳥肌しか生み出されない。
躊躇うように口をはくはく動かした田中は意を決したような表情を見せた。
この感じ、実際には経験したことはないが、漫画の知識で大体分かる。これは、
「お前がすきなんだ!」
告白だ。
俺は真っ赤に染まる田中を置いて逃げてきてしまった。だって今は自分のことで精一杯だ。
必死になって走っていたら、いつの間にか教室に戻ってきていた。弁当を食べ終わったのか、山田は漫画雑誌を読んでいる。
俺に気づいたのか、山田が顔をあげた。
「……なんでお前顔赤いの」
「はっ、!?赤くねぇし!!」
当然大きな声をあげた俺にも動じず、山田は只何かを悟ったように笑顔でふーん、と言った。
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リメイクにより友人の出番が増えました。
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