俺には恋人がいる。
と、言っても。
線の細い可愛らしい女の子なんかじゃなくて、逞しい体つきをしたイケメンなんだけど。
そいつはかなり下半身がゆるかった。
どんだけ制御効かねーんだよ、と問いただしたくなるくらい。
それに気づいたのは付き合い始めて1ヶ月くらいだった。
俺達は同棲してて、帰りが遅くなってしまった時だ。
微かに開いているドアからもれる光と声に、絶望を隠しきれなかった。
一回なら見過ごせた。
けどこうも続くと、いくら俺でも諦めがついてしまうものである。
「なんだろう。俺が悪いのかな」
目の前の端整な顔に問いかければ、予想だにしない返答が帰ってきた。
「別れろよそんなやつ」
友人の淀みない瞳が俺を見つめる。
俺の彼氏に負けず劣らずイケメン。
平凡な俺の近くに、なんでこんなにイケメンが存在しているのだろうか。
「…でも」
「だってお前辛そうじゃん」
心配してくれてるんだ。
友人の揺れる眼をみて、そう思った。
胸の内側から、熱い何かが押し寄せてくる。それと同時に、俺の底が冷めていくのを感じた。
簡単にアイツの顔は頭に浮かんだ。
恋人と他人の情事なんて見たいわけない。今まで発狂せずにしてきたのを誉めてほしいくらいである。
そろそろ、潮時なのだ。
「別れよう」
真っ直ぐ目を見て、彼にそう告げた。
面食らったような表情に、よくわからない優越感が顔をだす。
いつだって、彼は焦らなかったから。
俺に浮気がばれた時だって、無表情だった。
「…は?マジでいってんの?」
「マジだよ。こんなこと、冗談で言うわけない」
俺は伏し目がちにそう言えば、彼は机を力強く叩いた。
その音に思わず肩が揺れる。彼の表情を伺えば、冷たい瞳が俺をい抜いた。
「ふざけんな。絶対別れねぇから」
「……じゃあ俺出てく」
椅子から立ち上がり、俺は携帯と財布だけを持って玄関へ向かう。
すかさず立ち上がった彼に、腕を掴まれた。
「…離せよ」
「嫌だ」
「離せ!!」
暴れようと腕を動かせば、その腕さえ彼に掴まれ、無理やり向き合うような形にされた。
辛そうな表情を彼は浮かべていた。
その表情は、お前がするべきじゃない。俺がするべきだ。
情けない表情をする理由なんて検討もつかず、俺は思わず俯いた。
「…別れるなんて言うな。頼む……もう、浮気なんてしないから…」
今にも泣きそうな程、彼の声は弱々しいものだった。
こんなにも情けない彼を、俺は初めて見た。
いつもいつも余裕があって、カッコいい彼はそこには居ない。
「もう、疲れたんだ」
俺は絞り出すようにそう呟いて、彼の腕を振り払う。
俺は俯いたまま、前すら向けなかった。
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受けはその後友人と付き合うフラグ
後味の悪いお話すみません
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