彼が僕に真顔で言う。「好きだ」って。僕も彼が好きだったから本気にした。
僕が、「ぼくも」って口を開く前に、彼は渋い顔をして遮る。
集まった頬の熱が何処かへサーっと引いていくのがわかった。



「ごめん。嘘。罰ゲームなんだよ」



彼が言う。僕はゲームの罰の対象で、それで。
怒りよりも先に悲しみが来るのは、きっと僕が彼を好きだから。
本当はわかっていた筈なんだ。彼は人気者で、僕みたいな地味なやつ、興味すら無いことに。男同士の恋なんか、うまくいくはずもないことを。

なのに、僕は真に受けた。

僕は精一杯の笑顔を彼に向けた。「そうだよね、当たり前だよね」震えた声で言う。
胸は苦しいほど痛くて、ぽろりと目から涙が一粒こぼれた。
それを引き金に、涙は次々と流れ出す。
俺は教室から飛び出した。

惨めだ。



次の日、僕は学校を休んでしまった。
我ながら女々しい。泣き腫らした目は重たくて真っ赤になっていた。
今も胸から鳩尾にかけてがキリキリと痛み、彼を思うと涙が滲んだ。

彼が、今日僕が休んだと知ったらどう思うのだろう?きっと気持ち悪いって思うんだろうな。

あぁ、もうやめよう。彼を考えることは不毛だ。終わった恋だ。もう、諦めるしかないのだ。
また体調が悪くなってきた。俺が布団をかき集めると同時に、インターフォンが鳴り響いた。
今母は出掛けてしまってる。こんな夕方に訪ねて来るなんて、宗教かなんかだろうと俺は無視を決め込んだ。

ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン

…寝れない。
仕方なく、僕は出ることにした。



「あのどちらさ、ま…」

「…やあ」



目の前の人物に驚いて言葉もでない。
この目の腫れの原因が、今まさに目の前にたっていた。
僕はほとんど反射的にドアを閉めた。が、それは彼の長い足に阻まれ、僕が怯んでいるうちに彼は室内に入ってきてしまった。
どうして彼は僕の家に?そもそも、何故家を知っているのだろう。様々な不思議なことが右往左往していく。
彼が僕の手を握った。



「お前、俺の事好きだろ?」

「………」

「男の癖に気持ち悪い」



…わざわざ、こんなことを言うためだけに、彼は家まで訪れたのだろうか。馬鹿馬鹿しい。けれど、一番馬鹿馬鹿しいのは、今泣きそうになっている事実だ。言葉で言われると、やはり耐えられない。
僕が思わず俯くと、彼が僕の顎をつかんで上に向かせた。

彼は、笑っていた。

いつもの爽やかな笑みじゃなくて、意地悪な、こう、僕の底の方をなで回すような。そう、気持ちの悪い笑み。
僕はびくりと震えて、涙も止まる。彼が口を開く。



「でも、俺。お前の泣き顔好きだよ。壊したくなる」



そう言って、彼は僕の涙にちゅっと吸い付き、ペロリと唇を舐める。彼の目は、捕食者のそれだった。



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受けを泣かせたい攻め








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