「お前、そんな格好で人前出れんのか」



暗に似合っていない、と言われているようで俺は苦笑いを溢した。まぁ、似合ってないのは事実だしなぁ、と俺に反論することは出来ない。
俺のそんな態度に何か苛立ちを感じたのか、今井の顔は険しくなった。
怖いのは嫌なので、俺は横にある洗面所の鏡に視線を移した。パッと見なら、女の子が不良に絡まれてるみたいに見える。



「まぁ、お前がそんな格好で人前に出たいなら止めないけどな」



今井は吐き捨てるように、言って、俺から離れていく。
俺は思わず声を上げた。
いまそんな事を言う雰囲気ではないのはわかっていたけれど、今言わなければ機会を逃してしまう気がして俺は今井に詰め寄る。
先程までの覇気たっぷりの顔が今ではきょとんとした戸惑いのものに変わっていた。



「チャックに手が届かないんだ」

「……はあ?」



事の状況を説明すると、今井は髪の毛みたいに顔を赤くしながら俺の体を押した。「なんで俺がお前のために、!ぜってーやんねぇぞ!!」今井はプンプン怒りながら自分の部屋に行ってしまった。
俺はメイド服のままどうしていいかも分からず立ち竦む。
一度チャックに手を伸ばしたが、やはり手が届かなくて俺はため息をついた。
今から井藤をよんでチャックを下げてもらうのも気がひける。そもそも、チャックを下げてもらうためだけに呼ぶのは如何なものだろう。
俺は自分の部屋に戻って、ベッドに腰をおろす。穴に目をやれば、今井とちょうど目があった。
今井はすごい早さで目をそらした。
…うん、わかってたけど傷つくよね。
俺は携帯を取りだし、井藤当てのメールを作成する。申し訳ないけど、脱げないのは困るもんな、ごめん井藤!
俺は送信ボタンに指をかけた。



「ちょっと待て」



手を引かれ俺は携帯を床に落とした。
カシャン、と音を立てて床に落ちた携帯に俺は気を配る事さえ出来なかった。

今井に、抱き締められているから。

謎の急展開に俺の思考は追い付かず、視界にチラチラ入る赤い髪の毛をぼんやり眺めた。
ジー、と、今一番聞きたい音が聞こえて、背中に空気が当たる感覚がした。
今井の体が離れる。俺は今井を見上げた。
予想通り、真っ赤な顔の今井は、俺のおでこにでこぴんすると穴から自分の部屋に戻って行った。
今井って、照れ屋なのかななんて考えながら俺は呑気に着替えを始めた。








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テーマ「人外ファンタジー」
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