峯に渡されたメイド服を、畳んだまま床に置いて俺は微妙な気持ちで眺めていた。衣装用意は峯が全てやったらしいが、どこから手に入れたんだろう。
ドンキで売っているような安っぽさはなく、なんかすごく本格的だ。生地も上等な物に感じる。
これ汚したりしたら怒られるよなぁ、と俺は床に置かれたそれを広げてみた。
「…うわぁ」
丈が、嫌に短い。
太ももの真ん中辺りにくるように作られているようで、足がかなり露出しそうだ。こんな姿をした自分を見たら親はどう思うのだろうか。
「……」
…一回、着てみようかな。…いや、別に着てみたいとかじゃなくて、練習の意味をこめてだ。
そう、別に着たくて着るんじゃない。と、俺は誰かに言い訳するように頭のなかで繰り返す。
そして、上着を脱ぎ始めた。
洗面所の姿見鏡に俺の女装姿がはっきり写っている。似合うか似合わないかで言えば、正直似合っていない。こんな状態でいいのか?まさか、俺ってウケ狙い要員だったのかな。まぁ、そんくらいの方が逆に気が楽だ。
とりあえず見るに耐えなくなってきたので、俺は後ろについているチャックに手を伸ばした。
「んっ、と、…あれ?」
チャックに、手が届かない。
先ほど着たときは上げることが出来たのに、と俺は一生懸命チャックを探る。
腕つりそうだな、なんて考えながら頑張っていたからか、俺の耳には扉が開く音も閉まる音も入らなかった。
「なにやってんだお前…」
呆れたような声が洗面室に響いた。
俺は勢いよく声の方に顔を向ける。想像通り呆れた顔の今井が立っていた。
俺はどうゆう風に誤魔化すか一生懸命考える。
俺の心情なんて分からないであろう今井が俺に一歩近づいてきた。俺も反射的に一歩下がる。
そんな駆け引きを数分続け、背中はピタリと壁にくっつけるような状況にまで追い詰められた。
今井の顔が近いし怖いしとっても心臓に悪い。
「…お前、その格好で文化祭出んのかよ」
「う、うん…」
暫くの沈黙。それはもう、とても気まずい。
今井はため息をついて、俺の体に目を向けた。恥ずかしさで体が強ばるのを感じた。
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