苑崎先輩に引っ張られ、ついたのは寮の一室の前だった。ここは誰の部屋だ、とか考えていたらその部屋の中に先輩はずんずん進んでった。
もしかしなくても、ここは。
「俺の部屋だ」
やっぱり!
全体的に纏められたお洒落な部屋だと思うが、密室に先輩と二人なんて危険にも程がある。
俺がわたわたと慌てるのを見た先輩は、ふ、と一つ笑った。「襲ったりしねーよ」慌てていた理由を見抜かれてすごく恥ずかしい気分になった。
一刻も早くこの部屋から抜け出したくて、俺は早速先輩に問いかけた。
「…なんでここに来たんですか?」
「ん?」
先輩がきょとんとした顔でこちらを見る。そんな顔もイケメンなんだもんな、憎たらしい。
少し考えるそぶりを見せた先輩が、いつものにやりとした顔に戻った。
「ほら、鈴木って俺のこと避けてるじゃん。だからだよ」
「だから…?」
だから、と言われても。と、今度は俺がきょとんとした。
そもそも避けていることに気づいてたのなら、そのまま俺のことは放っておいて欲しかった。
はぁ、と先輩がため息を吐く。物わかりの悪いペットを諭すような、なんかそんな感じだ。
「別に俺は鈴木に嫌われたい訳じゃないからな。…いきなり盛ったのは悪いと思ってるし、俺は鈴木と良い関係を築いていきたいんだよ」
真顔で言われ、俺は面食らう。そして、言葉の意味を理解し一気に体温が上がった気がした。
俺は絵にかいたような平凡だから、こんな格好いい人に友達になりたい的なことを言われたことなどない。
恥ずかしいような嬉しいような、不思議な気持ちだ。
「だからそんな身構えんなって」
「は、はい。すみません…」
肩を数回叩かれ、俺はふぅ、と息吐き出した。
「俺は、正直先輩のこと怖いです」先輩が頷く。俺は震える声をなんとか抑えて、更に続けた。
「先輩は不良だから、俺みたいなのといても面白くないと思います」
「お前と楽しいか決めんのは俺だろ。そもそも俺は不良じゃねぇ」
じゃあ何で今井と喧嘩してたんだよ、という言葉を飲み込み、最初に言っていた方だけを反芻した。
凄く格好いい言葉だ。
「俺はお前と一緒に喧嘩やら暴れたりしたい訳じゃねーよ。只、飯食ったり、たまに外出したり、そういう普通なことがしたい。それはこの学校じゃお前が適任だと俺は思う。友達とかって、こんな言ってなるようなもんじゃないけど言わせてくれ。
俺と友達になってくれ」
俺は再び頬が熱くなるのを感じで、思わず口を開いた。
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
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