井藤の目が怖い。
そう純粋に感じた。据わってると言うか、兎に角光がない。
取り敢えず、井藤が怒ってる理由を知りたくて、俺は口を開いた。



「他の奴って…どういうこと?」

「そのままだよ。ねぇ、良弘、誰かに身体触らせたの?」



触らせたくて触らせたわけじゃないんだけどなぁ、と思いつつ、触られた事を悟られてはいけない気がして井藤の瞳を見つめ続けた。井藤は"はぁ"と息を吐くと、俺の腰に手を回した。
常々思っていたが、井藤は少しスキンシップが過剰だ。



「心配させないで?俺、良弘がいなくなったら死んじゃう」



流石に言い過ぎだよ、と思っても口に出せないチキンな俺は、井藤の気がすむまでずっと抱き締められ続けた。



ところ変わって寮の食堂。
すっかり機嫌の直った井藤と飯を食いに来たのだ。
機嫌の良い井藤は、いつも以上に過度なスキンシップをしてくる。今だって、繋がれた手は離れそうに無かった。



「良弘はなに食べる?」

「う、うん…どうしようかな…」



井藤のキラキラスマイルを目前に、俺は気が気じゃなかった。

みんな見ている。

何をって、俺と井藤を。正確に言えば、このがっちり繋がれた手を。
奇異の目を向けられ(たまに羨望の目)、俺としては飯より先に、井藤と適切な距離をとりたかった。
しかし、今そんな事を言えば井藤は過剰に反応して先程みたいな状態になる気がした。平凡の勘だ。
だけどやっぱりこれはなぁ…。



「つ、翼」

「なぁに?」

「俺、トイレ行ってくる」



遠回しに離してくれと伝えてみる。「じゃあ俺も一緒に行くよ」

な ん で だ よ !

高校生にもなって連れションとは如何なものだろう。俺だったら嫌だぞ。



「いや、翼は先に注文してなよ。すぐ戻って来るから」



俺が宥めるように言えば、井藤は不服そうながらも手を離してくれた。

俺は行きたくもないトイレに向かう。井藤に握られていた手は汗でびっしょりだ。取り敢えず、このびしょびしょの手だけでも洗ってしまおうと、トイレに入り込んだ。

流れる水を見ていると、なんだか色々な物も流れて行くような気がした。

ガタン、キィー…

後ろで個室が開く音がした。反射的に俺は振り向く。



「……」

「………」



ふ、ふ、不良だあぁぁ!!








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