一言で言えば俺は運がない。

寝ている隣人(赤髪不良)を起こさないように忍び足ですぐに自分の部屋に戻ろうとした。が、わけのわからないコードに俺は足を引っ掻けた。
スローモーションみたいな感じで俺は倒れる。地面とご対面するとき俺は思った。あ、俺死んだ。って。

ガッシャーン!!

凄まじい音に加え、顔面に鋭い痛み。俺はいつからどじっ子になったんだ。
嫌な予感しかしなくて、恐る恐る隣人の部屋に目を向ける。案の定、不機嫌そうに瞳と遭遇をした。眠たそうな瞳で睨まれて、俺は若干漏らしそうになった。
打った鼻も痛いが彼の視線も痛い。俺は咄嗟に口を開いた。



「おっ、はよう」

「…………」



沈黙。
で、すよね。大体今は夕方だし。と場違いな思考を巡らせていた俺の目の前に、いつの間にか赤髪が立っていた。見下ろす視線の冷たさと来たら泣く子が失神するレベルだ。



「おい」

「ひ、はひ!?」



赤髪は俺の目線にあわせてしゃがむと、俺に声をかけた。予想外の出来事に、思わず変な声が出て恥ずかしかった。
まじまじと俺の顔をみる赤髪。整った顔に見つめられて、俺は居たたまれなくなる。



「てめえ誰だよ」



ドスのきいた声にまたちびりそうになるが、流石に高校生にまでなって失禁は社会的にないので、我慢した。
赤髪の言ってる意味がわかんなくて、俺はキョトンとした。誰だよ、って。え?



「誰だって聞いてんだよ!」

「すすすすみません!!」



苛立ったような声、ていうかもう怒声を浴びせられた俺は反射的に謝ってしまった。
びくびく怯えながら俺は口を開く。



「す、鈴木良弘という者です……」

「ふーん。で、その鈴木くんが俺の部屋に何のようだ」



俺の部屋って…俺の部屋でもあるんだけど。と、反論なんて出来るわけもなく、俺はその端整な顔を見つめる事しか出来ない。
すると、赤髪は思い付いたように声を発した。



「あ、てめえもしかして同室の奴か?」



赤髪の言葉に、俺は無我夢中で首を縦にふる。そんな俺を赤髪はまじまじと眺めたあと、興味無さそうに「ふーん」と呟いてそのまま自分の部屋に戻って行った。
途端、俺の全身からは力が抜ける。
な、殴られたりしなくてよかった。素直な感想だった。


数分立って、やっと落ち着いた俺が自室に戻ろうとしたときだった。コンコン、と扉を叩く音が聞こえた。もちろん赤髪は反応すら見せないので、俺が出る。



「や!少しぶりだね」



扉を開けると、そこには井藤が笑顔で立っていた。部屋教えたっけ、なんて俺の疑問を他所に井藤は話始めた。



「ね、今ちょっと出れる?てか一緒にご飯食べようよ」

「え?あ、うん?」



井藤に手を引かれるまま歩き出す。完全に流された感が否めない。

俺の手を掴んだまま前をずんずん進んでいく井藤についていく。手持ちぶさたになってしまった俺は、目の前の井藤に視点を合わせた。
染めたのか、薄い色した茶髪に、何個か空いたピアス。風貌は完璧チャラ男だ。よく見なくても綺麗な顔だし、なんで俺なんかに構ったんだろう。なんて暗い思考が働く。



「ねえ」

「へ?」



突然声をかけられ、素っ頓狂な声が出た。井藤は気にも止めないで続けた。



「良弘の同室って今井龍二だよね」

「え、そうなの?」



あの赤髪不良はそんな名前だったのか、と思いながら答えると、井藤は困ったように笑った。



「知らなかったの?入学早々センパイに喧嘩をうったって有名だよ?」



井藤の言葉に、へぇ、と声がもれる。俺はそんな危険人物と同室なのか。ついさっきの出来事を思い出して、俺は冷や汗を流した。



「気を付けなよ、良弘」



先ほどまでの笑みが嘘のように真顔な井藤に言われて、俺は頷く事しかできなかった。
に、してもいつまで井藤は手を握っているのだろうか。思わず繋がる手を見つめていると、慌てたように井藤は手を離した。



「あ、ごめん。…やだった?」



上目遣いで問いかけられ、俺は首を横にふる。
この甘いマスクで何人もの女の子を落としてきたんだろうな。そんな事を考えていたら、井藤は笑顔を作った。まるで女性に向けるような顔に、違和感を覚えずにはいられなかったが、考えるのは苦手なので何も考えないことにした。








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