放課後、早速と言った感じで俺の腕を引く彼、峯 景太は"部室"と言って空き教室に入っていった。
中は意外と綺麗で、でかいソファーが鎮座していた。それ以外にも、机やら棚やら私物であろうものが目立つ。完全にプライベートスペースだ。



「…峯、ここってなにする部活なの」

「時には音楽を聴いたり奏でたり、本読んだり…何でもあり」



もう部活じゃねーよな…。と思いながら峯に目をやれば彼はニコリと柔和な笑顔を見せた。



「基本は音楽鑑賞だよ。幽霊部員多数で、部員は三人」

「三人…?それじゃあ"部"じゃないんじゃ…」



うちの高校は三人集まれば『同好会』、五人集まれば『部』として成立するのだ。
ところが、部員は三人だという。



「鈴木が入れば、井藤もつられてくれると思うからそれで五人」

「井藤には断られたんでしょ?俺が入ったからって入るわけないんじゃ…」

「いいや、入る。断言できるね」



何をそんなに自信を持っているのか、峯はそう言って顔を引き締めた。そんな態度に思わず笑っていると、峯に両肩を掴まれた。



「お願いだから入ってくれ。僕はこの同好会を部にしたいんだ」

「えぇ、と…」

「頼むよ…」



綺麗な顔が悲痛に歪む。
あぁ、そんな顔、断れっていう方が無理な話だ。
そもそも、日本人っていうものは頼まれたら断れない人種なんだよ。俺はその典型的な日本人なわけで。



「わ、わかった!入るからそんな顔しないでよ…!」

「本当?」

「…ほんとう」



こくりと頷けば彼は顔を綻ばせ、大層喜んだ。今にも跳び跳ねそうな雰囲気だ。



「それじゃあ早速、井藤の勧誘をリベンジしに行こうか!」

「え!翼は風邪なんでしょ?無理させちゃ、」

「井藤は元気だよ、同室者の僕が言うんだから間違いない」



同室者?峯の顔を見やる。緩く微笑んだ顔が目に入った。

よく考えれば、井藤の部屋を俺は知らない。もちろん、同室者の存在もだ。大抵は井藤が俺の部屋に来るので、知るという考えを持った事が無かった。
一応友達なのだから、知っていても良いだろう。

俺は峯に引かれた腕を振り払わず、そのまま引っ張られた。





井藤の部屋は少し遠く離れた場所にあった。
峯が扉に潜るのをついていく。
そういえば、お見舞いしようと思っていたのだし、ちょうどいいい。

峯が井藤に声をかければ、少し不機嫌の滲んだ声が聞こえた。



「何?俺体調わるい、……」



そして、井藤は俺を見て固まった。何時もの笑顔はなかった。








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