今日から高校生。実感もそこそこに俺は真新しい制服に身を包み、家をあとにした。
これからあまり帰りことができ無くなる我が家を仰ぎ見る。
俺がこれからほぼ毎日通うことになる高校は、全寮制の男子校だ。十年以上暮らしていた家を離れるのは少し寂しかったが、親から離れて暮らすというのは素直に楽しそうだと思った。

俺は可もなく不可もなく、いじめられるわけでも、ましてやいじめに加わることもなく、勉強も運動も平均的で、顔も悪くもなければよくもない。
謂わば平凡。
そんな自分に呆れることもあったが、普通が一番というのを信じて気に病むようなこともなく今までを生きていた。
そんな俺が高校デビューなんて大それた事ができるはずもなく、小中と同じように波風をたてず「あ、そういえばいたっけこんなやつ」みたいなクラスに一人はいるであろう立ち位置に徹するのだろうと漠然とだが考えていた。
しかしそんな俺の思考は教室に入る瞬間止まった。
鼻をツンとつくような臭いに自然と眉間にシワが寄る。間違いない、血だ。
教室に目を向ければ、赤い髪をした男が鬼のような顔をしてクラスメイトであろう男の胸ぐらを掴みあげていた。胸ぐらを掴まれた男は、痛々しいくらいの鼻血に、瞼が切れているのか赤く腫れ上がっている。
どうすることも出来ない俺は教室の扉の前で立ち尽くした。
赤い髪の男は掴んでいた男をそのまま床に放ると、此方に近づいてくる。俺は道を開けることも忘れてその男の顔を凝視してしまった。
切れ長な目に、筋の通った鼻。形の綺麗な口は不機嫌そうに歪んでいる。不謹慎ながらも、綺麗だと思った。同性である俺から見てもカッコいい。



「退けよ」



なかなか退かない俺に痺れを切らしたのか、低い低い声が俺の耳に響いた。俺はすかさず扉の端による。扉をくぐると、男は廊下の奥に消えていった。
教室は暫くの間沈黙というか、なんとも気まずい空気に包まれていたが、五分もすれば各々好きなように談笑をしていた。ボコボコだった男は保健室にでも行ったのか教室にはいない。
俺は自分の席を見つけると、そこに腰を下ろした。すると、見計らったように、前の席の奴が声をかけてきた。女うけの良さそうな顔をした男だった。



「ねぇ、名前何て言うの」

「え?」



馴れ馴れしいな、と思いつつ無下にもできなかった俺は素直に目の前の男の質問に答えることにした。



「鈴木良弘だけど…」

「良弘か、俺は井藤翼。よろしく」



井藤は屈託のない笑顔を浮かべる。いきなりの呼び捨てには戸惑ったが、どうやら悪いやつでは無さそうだ。
その日はそのまま明日から始まる授業の説明と、入学式だけで特に何か有るわけでもなく無事終わった。終始空席だった隣の席が気になったが、時間が立つに連れて考えることも無くなった。
そして、今は寮にいる。
荷物整理も、荷物自体が少なかったこともあってかすぐに済み、俺は今日合ったことを何気なしに振り返ってみた。
何だかんだで井藤とは仲良くなれそうだし、悪い一日では無かったと思う。しかし、あの赤髪の不良の事を思うとこれから大丈夫だろうかと不安が生まれた。あの不良に目をつけられたら、と思うと俺の小さい心臓が早い鼓動を繰り返す。



「だ、大丈夫だよ。うん……」



まるで言い聞かせるように独り言を呟いた。
こちらから接触しなければ、あの不良だって何も仕掛けないだろう。そう自己解決をした俺は同室の人物が気になったので、隣の同居人を確認するため部屋を覗いた。そして後悔した。というか絶望した。
隣の部屋のベッドで綺麗な顔をした赤髪の不良が窮屈そうに寝ていたからだ。
まさかの同室とは。これから俺はどうなるのだろう。








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