「つか、一昨日?も鈴木んとこ行ったんよ、けどお前寝てるとかどんだけ。僕が訪ねることなんて滅多にねーのに」
チャイムが鳴ると同時に、西野に腕を引かれ連れてこられたのは、屋上だった。
早速喋りだす西野は予想よりも饒舌で、軽い印象を受ける。薄々は気付いていたが、チャラ男みたいだ。
「ちょい、聞いてんのかよ?」
「あ、うん…」
適当な相槌を打って、俺はどうやって西野の誤解を解くか考えていた。
西野が話を聞かないのは、昨日の出来事から重々承知だ。
しかし、このままこの誤解を野放しにしておけば、恐らく俺は皆から『面食いホモ野郎』と罵られるだろう。
それは困る。非常に困る。
「…やっぱ僕の話聞いてねーだろ、鈴木!」
「うわ!なに、って近!」
いきなりでかい声を上げた西野を慌てて見やれば、想像を遥かに凌駕した至近距離に西野はいた。鼻がくっつきそうなことに、思わず苑崎先輩を思い出して自己嫌悪に陥った。
「やっぱし聞いてなかったな?」
「ご、ごめん。…なに?」
なんとか後退り、西野と距離をあけた俺は西野の言葉を聞き返す。
すると、西野は得意気な顔をして胸をはった。
「だから、僕考えたんだけどさ、別に鈴木のこと嫌いじゃないし、付き合ってもいいかなぁって」
「は、」
つ き あ う ?
俺と、西野が?…いやいや、無いだろ。それは冗談が過ぎるってもんだ。
軽薄さの滲む笑顔を見つめながら、俺は固まった。
初めての恋人が男なんて俺にはファンキー過ぎてついていけない。否、ついていきたくない。
「い、や、別に無理して付き合わなくても…」
「んだよ、無理なんかしてねーよ。寧ろどんとこい!って感じだ!」
どんとこいじゃねーよ。
このままでは、西野と付き合うことになってしまう。
俺は咄嗟に口を開いた。
「俺!もうすでに恋人がいるから!」
「そうそう、良弘は俺と付き合ってるもんね」
「へ…?」
いきなり表れた、俺でも西野でもない声に俺は内心焦る。
西野は吃驚したような顔をして、俺の後ろを見ていた。それを辿るように俺も振り向く。
「つ……翼…!」「そうだよね、良弘」
井藤が笑みを作る。
これは、俺を助けてくれているのだろうか。だとしたら、かなり有難い。俺は一生懸命首を上下させた。
「そう!俺、翼と付き合ってるんだ!」
←→
←