触れているのが先輩の唇だと気付くのにはさほど時間はかからなかった。
無我夢中で暴れれば、すぐに先輩の唇は離れた。



「なにして…!」



わなわなと震えだした体を抑えつつ、俺は声をあげる。
先輩は決まりの悪そうな表情で後頭部を掻いた。



「…わり、今日はそういうつもりで来たんじゃねーのに。制御きかなかったわ」

「はぁ!?」



意味のわからない返答に、思わず声がでかくなった。
先輩に対して、自分がこんな口をきけることにビックリだ。まぁ、今はそんな事はどうでもいいのだけど。
自分でも驚く程の憤りを胸中で感じた。
ファーストキスだった。
女々しいとは思うが、俺にとっては大事なものだった。それが、男に…。
思い出しただけでも腹立たしい。
なんとか怒りを鎮めながら、俺は自らの鞄と井藤の鞄を持ち、教室から逃げ出した。何かを叫ぶ先輩なんて無視だ、無視。
俺は出来るだけ早く足を動かした。











「あれぇ、なんで良弘いんの?」



職員室についた途端、出てきた井藤はビックリしたのかいつものようには笑っていなかった。
俺は井藤の顔を見て安心したのか、顔の筋肉が弛むのを感じた。抱き抱えていた井藤の鞄を渡し、一息吐く。
悪夢のような数分間だった。



「なんかあったの?」



俺の顔を覗きこみながら、井藤は心配そうに眉を垂らしていた。本当に良い奴だ。
若干感動で泣きそうになりながらも、俺は笑顔を浮かべ頭を横にふった。



「なにも無いよ。心配してくれてありがとう」



井藤は小さく目を見開いたあと、口元を微かに歪めた。
ぐしゃぐしゃ、と俺の頭を掻き回したと思えばぼそぼそと喋り始めた。
俺には全く聞こえなかったが。



「その顔は反則だろ…」



一頻り俺の頭を撫でた井藤はくすりと笑みをもらした。ぐしゃぐしゃになった頭を必死に直しながらそちらを見る。
口元に手をおいた井藤はくつくつと喉を鳴らした。



「頭、酷い事になってるよ」

「翼がやったんじゃん…」



思わず唇をつき出しながら言えば、井藤は更に笑みを深めた。
井藤のおかげで、先輩の事は頭にすでになかった。








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