「よう鈴木ぃ」



特に目立った事もなく、俺の平和な一日は過ぎていった。
そんな放課後、俺の目の前に現れたのは少し久しぶりに見る人物だった。



「苑崎先輩…」



そう、苑崎稔、その人だった。

駆け巡るのは昨日の夕方の押し倒されたあの感覚と、鳥肌だ。
苑崎稔は、俺の中で完全に危険人物になっていた。

また何かされたら堪らないので、俺は教室から出ようと足を動かす。
今は放課後で、教室には俺と先輩二人という最悪の状況だ。
因みに、井藤は先生に呼び出しを食らっていた。俺はそれを待っている。
井藤はさっき出ていったばかりだから、まだ時間がかかるだろう。
つまり、自分の身は自分で守らなければ。

すぐ目の前は出口だって言うのに、俺の腕は先輩に掴まれていた。
出れそうなのに出れない歯痒さに、俺は眉間に皺を寄せた。



「つれねーな、鈴木。んなに拒否されると興奮すんだろ」



変態め…。
心の中で悪態を吐きつつ、俺は先輩の手をはがしにかかる。
もちろん、そう簡単には外れないのだけど。
先輩の手は、そこまで強く握っているようには見えないのに、俺が外そうとしてもびくともしない。
俺が弱いのもそうだけど、先輩の力が強いのは確かだった。



「やっぱよえーな」



喉で笑う先輩を睨むように見やる。
やたらとあった絆創膏とガーゼは昨日みた時よりかなり減っていた。なんという治癒能力。
よく見ればかなり綺麗な顔をしている。怪我ばかりに目がいって、気付かなかった。
思わずその顔に見惚れていると、先輩は口を歪めて笑った。



「なんだ?俺に惚れたか?」



心底楽しい、というような表情に、俺は視線を床に反らす。
見とれていた事を気付かれていたと思うとかなり恥ずかしくなった。
熱い頬を隠すように俯けば、先輩の体が強ばるのが目に見えてわかった。
不審に思っていれば、先輩の両手が、俺の両頬を包み込んだ。
無理やり上を向かされ、俺は思わず目を瞑る。
だって、先輩の顔が、近すぎたんだ。

先輩が息を呑む音が聞こえて、俺の唇に何か柔らかいものがあたった。








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