体を拭き終わった俺は途方にくれていた。
着替えを忘れるなんて、どうすればいいんだ。このまま外に出て、今井と鉢合わせなんて冗談じゃない。
他人に体を晒すのが、俺は極端に嫌だった。だって見せられるような体をしていなかったから。ひょろひょろで、筋肉なんて申し訳程度にしかついていない。
そんな体を、引き締まった体の持ち主である今井には見せたくなかった。刺激される劣等感。

(でも、まだ今井は寝てるんじゃないか?)

ふと考えついたそれに、俺の心が少し晴れる。
この望みにかけよう。
決心を固め、俺は扉に手をかけて、足早に自室へと飛び込んだ。もちろん全裸で。
今考えれば、脱いだ服を再び着ればよかったのだが、焦っていた俺の頭に、そんな考えは思いつきもしなかった。
部屋に入ってとりあえず下着だけでも入手しようと、俺はタンスを漁る。やっと掴んだパンツを急いではいた。これで自らの急所を隠せた。安堵の息をもらし、何気なしに穴に目をやった。ここで、穴に目もくれずに着替えればよかったのだが、何故か見てしまった。
目が合う。それは、紛れもなく今井の双眼。
頭の上から爪先までが冷えていく感覚がした。
反対に、今井は茹で蛸のように真っ赤な顔をして、こちらを見たまま今にも発狂しそうな顔だ。



「い、今井く」

「服着ろバカ!!」



"ん"を言い終わる前に、慌てて布団をかぶった今井は声を荒げた。まるで男の裸に慣れていないような態度だ。俺も慣れていない部類に入るが、こんなに露骨なまでに照れた事はない。
今井の行動に暫し疑問を感じていたが、俺は言われた通り着替え始めた。
制服に身を包み終わった俺は再び穴に目を向けた。今井は相変わらず布団をかぶったままだった



「い、今井くん。服着たけど…」



こんな事、前にもあったような。そんな事を考えていたら、今井は布団から顔を出した。髪に負けないくらいに顔は真っ赤だ。
今井は俺の格好を一瞥、ため息を吐いて凄んできた。



「てめえが前に服着ろって言ったんじゃねぇか!」

「うぅ…ご、ごめんなさい…」



こんなに怒るくらいだから、俺の体はさぞ醜かったのだろう。
俺は素直に謝罪を述べた。今井は目を細めた後に、急に機嫌が急降下してそのまま寝てしまった。俺には今井がよくわからない。
とにかく起こしたら殺されそうなのだけは感じ取れたので、荷物を手に俺は部屋をそおっと出た。








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