放課後。
結局朝のHR以来隣は空席のままだった。



「良弘、帰ろ」

「うん、帰ろうか」



荷物を持ち上げて井藤についていく。昼の事は気にしてないのか、いつもの笑顔だった。
二人並んで昇降口を出たとき、不意に井藤が口を開く。俺は斜め前の顔を見つめた。



「良弘ってさ、結構危なっかしいね」

「そうかな、」

「そうだよ」



俺の微かな反論は簡単に否定される。
少し前を歩いていた井藤がこっちを向いてニヤリと笑顔を作った。



「だから俺が守るね?」

「え?」

「うん、決まり!」



俺の返事を待たず、井藤は人懐っこい笑みを浮かべて何度も頷いた。
守るとは一体どういうことだろうか。と、言うか。
男が男を守る。
なんだか寒気がしたが、きっと井藤は好意で言ったのだろう。だから俺は特に反応を見せなかった。






寮に着き、俺の部屋の前で井藤とは別れた。扉を開こうとしたが、どうやら鍵がかかってるらしい。今井が閉めたのだろうか。
俺は制服のポケットから鍵を取り出すと、おもむろに鍵穴へとそれを差し込み回した。
ガチャリ、と鍵の開く音が聞こえ俺は再びドアノブを捻った。

部屋に入ると、それはもう酷い有り様だった。俺の方は大丈夫だが、今井の部屋はかなり酷い。壁が剥がれていたり、カーペットには血がたくさん飛び散っていた。
俺はそそくさと自室に入ると、先ほどの今井の部屋よりも驚くものを目にした。
穴だ。穴がある。
今井と俺の部屋を区切る壁に、人が一人入れるのでは無いかと思うほど大きな穴があった。穴からは隣の今井の部屋が丸見えだ。
もちろん、朝はこんなものなかった。だとすると、ケンカで空いたのだろうか。思わず穴を凝視していると、部屋の扉がトントンと音をたてた。
俺は穴に気をとられながらも扉に向かった。



「よう鈴木」



片手を軽く上げた苑崎先輩は、絆創膏だらけの顔をニヤリと歪める。よく見れば手も絆創膏だらけだ。



「い、今井くんならいません」

「あ?今井なんていいよもう」



そう言うと、先輩は朝みたいに俺の間から部屋に侵入してきた。慌てて俺は先輩の腕を掴んだ。



「じ、じゃあ何しに…」

「用がなきゃ来ちゃ行けねーのかよ」



俺の腕を振り払って先輩は部屋に入っていく。
俺はその背中について行くだけで、反論なんて何も出来なかった。
先輩は俺のベッドに腰かけると、穴を見つめながら薄い笑みをこぼした。



「鈴木、この穴俺が空けたんだよ。ごめんな?」

「あ、はい……え?!」



てっきり今井がやったと思っていたから、素っ頓狂な声をあげてしまった。先輩は変わらず笑顔で床に座る俺を見やる。
穴と先輩の顔を交互に見た。先輩の細い腕でどうやって空けたのか些か疑問だ。
まさか、拳で?…いや、ないか。
頭の中でそんな事を考えていたら、思考は中断した。正しく言えば、中断させられた。
腕をひかれ、ベッドで組敷かれたのだ。








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