それは最早魔法という道具と呼ぶにも憚れるような力でこの惨状を招いた。
惨状?
それに救われたにも関わらずそんな表現は失礼だよなぁ、とバッツは頭を掻いた。
その目の前で、頭が溶けたようなイミテーションや、右半分、左半分をなくしたもの、腹が抉れたものが、どさりどさり倒れ、割れて、欠片は消えてゆく。
おれもこの世界で死ぬ時は、あんなのかしら、と思いつつ、バッツは振り返った。

「助けてくれて、ありがとな」
「どういたしまして」

つん、とした声で返したのは、バッツの膝丈ほどの、子供のような姿をした者であった。
コスモスからちらりと聞いた、こちら側の最強の戦士、シャントット、らしい。
そして彼女はすぐにバッツに背を向けた。

「次はありませんわよ、へっぼこ君。自分でどうにかなさい」
「それは、これに限らず、って感じで?」
「もちろんですわ」

案外聡いのね、とそうは思っていない口振りが、バッツから遠退く。

「あんたは」

目的が達成出来ないことは覚れたというのに、口をつく引き止める意思を持った言葉は、何を由来とするのだろうか。
バッツは自分でも驚きながら、何を考えているんだろうと、答えを探す。
基本、出たとこ勝負には強い。
しかし準備不足では、なんだか一般的で、個性の無い、面白くないことを言ってしまう。
自分の現実的という長所が少し、疎ましい。せっかく足を止めてくれた彼女に、悪い。だから、そう、振り返れない。

「その力、怖くないのか、持っててさ。ええと」

呆れたため息は間髪を入れず。ごめんね。
回答は期待出来ないと思っていたが、彼女が去る気配は無い。バッツの足で、二歩分、彼女の足で六歩分の空白がある背中合わせ。
そこから、動かない。
振り返って、冗談、なんでもない、でもいいかもしれない。
でも彼女は足を止めたままなのだから、期待がむくり、鎌首もたげる。
それより先に、なんでこんなこと聞いたのだか、それも用意しなければ。

「どういう意味かしら。あなたに怯えるほどの力があるようには見えないのだけれど」
「うん、だから、分からないなって」

背中合わせの二歩より遠く、分からない。
シャントットの高慢ちきな声色は、どうにも根っかららしく、彼女の感情というものは込められてないらしい。
だから、バッツは意味だけ追えばよいので、楽かもしれないと思った。楽。
ああ、やっぱり友達に、なりたいな。
一体それがどういう関係を指差すのかイマイチ謎だが、バッツはそう思った。
コスモスから彼女の話を聞いた時から実は、予感していた。

「持ってる力が怖いって子、知ってるし、力に人格飲み込まれちゃったようなのいるし、力の謎にとりつかれちゃったのも、いるし。そういうのはさ、おれもなんか想像できそうなんだけど」
「でしたらそれで宜しいのではなくて?理解出来ないものを説明で無理に理解しようとすると、違うものになりますわよ」
「そうかぁ」
「それに、理解できたところで、あなたには必要のない感覚。あなた程度ではわたくしには至れませんわ」

そうしてトコトコ、可愛らしい足音が再開する。
バッツは振り返った。

「質問変えるよ」

シャントットの小さな背中は遠ざかる。
トコトコ。
バッツの足では既に七歩分。

「おまえのことが知りたい」

応えたのは魔法で消えた背中。
バッツは何もなくなったそこを凝視したまま顎に手を当てて思案した。
どうしても、脈ありだと考えたい。
助けてくれたのだから、そうだろうと。
自分がそんな風に解釈されてしまうとちょっとイヤだが、バッツはそう考えずにはいられなかった。
しかしもう一度、ピンチに陥る勇気はない。




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