いつもお兄さんと一緒に歩いてる彼。
私は彼が苦手だった。
人を見下したような瞳。
お兄さん以外の人には生意気なあの態度。
そして。
「あ、またいた。あんたもモノ好きだね」
何故かよくケンカの場面に遭遇してしまう私を目ざとく見つけて、安全な場所まで送ってくれるその行動。
「気をつけて帰んなよー」
笑顔を見せたあとヒラヒラと手を振り背を向けた彼。
どうしてそんなことをするのか分からなくて、そんな彼がなんだか苦手だった。
彼は美藤秀幸と言うらしい。
鳳仙学園という学校の人らしくて、巷ではけっこう有名みたいだ。
そんな彼が
「これアンタに似合いそうだな。買ってやるよ」
なぜか目の前でネックレスを吟味していて。
「ん、やっぱり似合う」
「あ…ありがとう…」
私はなぜか、彼とデートのようなことをしていた。
事の発端は、私がいつものように喧嘩に遭遇してしまったことからだった。
いつもと違って彼はいなくて。
慌てて離れようとすると、いきなり後ろから腕を引かれて。
驚いて振り向くと彼が汗だくで立っていた。
「なにやってんだアンタ!あぶねーだろ!」
何故か慌てた様子で怒鳴った彼にそのまま腕を引かれ、いつもどおり安全な場所まで連れてきてもらった。
「あ、ありがとう…」
「はぁ…ほんと毎度毎度…アンタ怪我でもしたいの?」
呆れたようにこちらを見る彼の視線がいたたまれなくて、つい顔を俯けた。
「いつも助けてあげてるんだから、お礼としてオレとデートしてよ」
突然の申し出にパッと顔を上げると、「じゃあ来週の日曜日午後1時!駅で待ってるから!」と日程まで一気に決められてしまい、彼はそのまま走り去ってしまった。
そして今に至る。
ここはフードコート。
目の前にはハンバーガーを頬張る彼。
「おいしー!」
ハムスターみたいにほっぺたを膨らませて食べる彼がなんだか可愛く見えてしまって。
「ケチャップついてるよ」
ポケットティッシュを取り出して拭ってあげると、ほんのり顔を赤らめて「ありがと…」と呟いた。
弟がいるのってこんな気分なのかなぁと思いながら食べてる姿を微笑ましく眺めていると、不意に「ね、オレといて楽しい?」と尋ねられた。
「楽しいよ。すごく楽しい」
ニコニコしながら答えると、嬉しそうに「そっか、よかった」と笑った。
ご飯を食べたあとはゲームセンターへ寄った。
「これ可愛いね」
指さしたぬいぐるみを彼がすんなり取ってくれたり、一緒に太鼓のゲームをプレイしたり。
お店を出た頃には、夜に近くなっていた。
「はー、楽しかった!」
彼が取ってくれた大量の戦利品を両手に持ちながら、前を歩く彼の「あぶねーぞ」と言った注意もろくに聞かず、鼻歌を歌いながら階段をおりていた。
「ふんふーん♪っひゃあっ!?」
「あぶねっ…!」
案の定足が滑って、階段から転げ落ちた。
でも思ったほど痛くはなくて。
恐る恐る下を見ると、「ってぇ…だからあぶねーって言ったろ」と呆れ顔の彼が下敷きになっていた。
「ああっ、ご、ごめんなさい!」
慌てて上からどいて彼の手を掴み引き起こした。
「ケガねーか?」
「う、うん…でもあなたが」
「オレは慣れてるからいいの。アンタにケガがなくてよかった」
そう言って笑いながら頭を撫でられて、少しだけ泣きそうになった。
「どうしていつも、私を心配してくれるの?」
彼に出会った時からの疑問だった。
どんな時でも必ず彼が安全な場所まで送ってくれた、そのことがいつも引っかかってて。
「…言わなきゃ分かんない?」
真剣な顔でこちらを見つめる彼に、ドキリとして顔が熱くなった。
「…うん、私バカだから、分かんない」
そう告げると、はぁ…とため息をついて。
「んっぅ!?」
突然キスをされた。
角度を変えて何度もキスをする彼。
ようやく唇が離れたときには、私の息は上がってしまっていた。
「あ、の…」
「オレ、アンタのこと好きなんだ」
鼻がくっつくくらい近い距離で言われた言葉に、理解が追いつかない。
「初めて見たときから好きだった」
そう言ってギュッと私を抱きしめた彼。
そっと顔を向けると、すごく真っ赤になっていて。
「巻き込みたくなかったから、だからいつも安全な場所まで送ってた」
ポツリポツリと彼が告げた言葉を聞いてそれまでの彼の行動を思い返すと、途端にそれらすべてが愛おしく感じて。
「私も…私も、好きだよ」
彼の背中に腕をまわして、ギュッと抱きしめた。
帰りの電車内で彼の肩にもたれて眠ってしまい、降りる駅を過ぎてしまって。
付き合ったその日で彼の家にお泊まりすることになるとは、この時の私は知る由もない。
「一緒に寝ないの?」
「え、ヤっていいの?」
「…頭の中にそれしかないの?」
「彼女が目の前にいるのに手を出せない辛さ分かる?」
「…今度泊まる時は、準備しててね」
「………りょーかい」
おしまい!
back