帰り道、公園のベンチで一服している彼を見つけた
こっそり後ろから近づいて、その手から煙草を奪い取った
「なっ!…なんだ七子かよ。お前も飽きねーもんだな」
「そんな言い方しなくてもいいでしょ」
「タバコ返せ」
「だめ。未成年でしょ」
「チッ!」
仏頂面でブサイクな顔をさらにブサイクにさせた彼はいつもボロボロだった
加地屋中の村田十三といえば有名だったが、いつも隣にいる彼もまた有名だった
大柄な体躯、村田と対照的な…その顔、そして喧嘩の強さに関しては村田よりも強いという噂だった
「また喧嘩したの?」
「テメーにゃ関係ねーだろ」
「あるよ!だって…クラスメイト、だし」
「…委員長様は大変だな。俺みてーなやつの面倒まで見なきゃいけねーなんてよ」
「そんな風に言わないの。ほら、傷見せて」
「チッ…」
あまりにボロボロな彼を見ていられなくて、手当をするのがいつからか私の日課になっていた
そのたびに彼は嫌そうな顔をするけど、その手を止められることはないから本気で嫌がっているわけではないんだと思う…そう思いたい
「よし、終わり!」
「やっとか」
手当が終わるとすぐに立ち上がり去っていこうとする彼の背中に、「もう無茶しちゃダメだよ!」と声をかけたが、彼は手をひらひらさせるだけだった
「もう…」
彼が見えなくなってから、ようやく鞄を手に取った


もう星も出てきて、暗くなっている
家路を急ぐため路地裏を通り抜けようとしたら、誰かに腕を掴まれた
「だれ、っんぐ!?」
口を塞がれて声も出せない
後ろから拘束され身動きも取れない
耳の近くにハァハァと生暖かい息がかかって気持ち悪い
(やだ、やだやだやだ!!誰か、誰か…っ!)
身体を這う手が気持ち悪くて怖くて、逃げたくて必死になっていたがなす術がない
「んーっ!んーっ!!」
恐怖で涙がこぼれ、口を塞いでいた手を剥がそうと必死にもがく
スカートの中に手が入ってきて、下着越しに秘部を撫でられた
「濡れてるね…興奮してるのかな…?ふふふ…」
耳元で囁く声が気持ち悪くて必死に首を横に振る
(違う、違う!!)
「ううー!うーっ!」
初めては好きな人に捧げるって決めてたのに、こんなところでこんな風に失うのか、汚れてしまうのかと絶望的なきもちになった

「おい」
「なんだよ、邪魔するな…ぐへぁっ!?」
いきなり低い声が聞こえたと思ったら、後ろにいた男の人が勢いよく吹っ飛んだ
「っ、あ…ぇ?」
「大丈夫か七子?」
声をかけてきたのはこの辺りで1番有名な男…村田十三その人だった
「むら、た…くん…?」
「よかった、大丈夫そうだな…。おい鮫!もうそのへんにしとけ。いい加減にしねーと死んじまうぞ」
その声にハッと後ろを向くと、一心不乱に相手を殴る彼の姿があった
「さ、鮫島くん!」
慌てて駆け寄りその背中に抱きついて必死に腕を止めた
その瞬間ピタッと止まった彼にホッと息をついて身体を離すと、彼はゆっくりと振り返った
「なにもされてねーか」
「う、うん…ちょっと身体触られただけ。だいじょう、ぶ…、っ」
彼らが現れたことで安心してしまい、ポロリと涙がこぼれてしまった
「我慢するな」と彼に言われてしまえばもう止まらない
「うっ、ひぐ…う、うぅ〜…こわかっ、た…こわかったよ…うぅっ…」
彼の胸にとびこむと、その暖かさにも安心して堰を切ったように涙が溢れてしまった
彼は何故か身体を強ばらせていたが、そんなこと構う余裕もなくわんわん泣いていた
「…どうやら俺は邪魔みたいだな。鮫、あとは頼んだ。俺は帰る」
「え、ちょ、俺を置いてくな!!待てって十三!」
聞こえてきたやり取りに慌てて身体を離すが、村田くんは既にいなくなっていた
「ご、ごめんね迷惑かけて…私1人で帰れるから、大丈夫だよ?」
そう言うと、頭に大きな手が乗って乱暴に撫でられた
「無理すんな。…別に迷惑だとも思ってねーよ」
「う…ん。…ありがと、鮫島くん」
「おー」
暗くて顔はよく見えないし、ぶっきらぼうな返事だけだったが、それがなんだか嬉しかった
「帰るぞ」
「うん」
さりげなく彼の手をとると、ビクリとその大きな身体が揺れた
「…なに、してんだ」
ゆっくりと振り向いたその顔が真っ赤で面白くて、つい笑ってしまった
「笑うな!」
「だって、おかしくて…ふふっ。鮫島くんのそういうとこ、好きだよ」
そう言うとさらに真っ赤になって「冗談いうな!」と怒って手を振り払いズカズカと先をいってしまった
「…冗談なんかじゃないんだけどなぁ」
いつかちゃんと想いを伝えたら、その時彼はどんな顔をするんだろうか
そんなことを想像しながら、先のほうで律儀に待ってくれている彼のもとへと走った



「鮫島くんは好きな人とかいないの?」
「あ?んー…いねー、かな」
「ふーん…」
「…そういうお前はどーなんだよ」
「私?いるよ」
「だれだそいつは」
「…教えない!」
「あ!?なんでだよ!」
「なんでも!もう早くかえろ!(まったく!鈍感なんだから!)」


おしまい



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