いじめられてたのを助けてくれて以来仲良くなったキムくん。
無口で、怒ったらちょっと怖いけど、すごく優しい。
そんなキムくんにはお兄さんがいる。
キムくんと似てるお兄さんは、すごく大人で落ち着いててかっこいいの。
たまにお家に遊びに行くと、お兄さんが出迎えてくれる。
でも、いつもお兄さんの隣にいるアキラさんがお兄さんと私の仲をジャマするの。
いつも私をからかうアキラさん、すごくムカつく。
でもキムくんもお兄さんも私たちが仲良しだと思ってるみたい。

「アキラさんかっこいいよな」
「はぁ!?どこが!?」
「ふんいきとか」

キムくんの目はふしあなだ。
あんないじわるする人のどこがかっこいいんだ。
そんなことを言いながら今日もキムくんの家に遊びに行く。
今日はお兄さんだけでアキラさんはいなかった。

「アキラさんは今日用事があってな、来れないって言ってたんだ」

ごめんな、と私の頭を撫でるお兄さん。別にいい…というかむしろいなくていい。
おかげで私はずっとお兄さんの隣に座れるんだもの。
キムくんと、お兄さんと過ごすまったりした時間。
とっても幸せ……だけど物足りないと思う私もいて。
元気がないと心配したのか、お兄さんがどこかに電話をかけた。

十数分後、チャイムが鳴ってお兄さんが出た。
そこにいたのはアキラさんで、相変わらずいじわるな笑みを浮かべている。

「君が寂しがってるって金から聞いたから、すぐ用事を終わらせて来たんだ」
「……べ、別にさびしくないし!」
「ふふ、そうかい」
「なーでーるーなー!!」

ムカつくムカつく!
大きい手で頭を撫でられて、お兄さんにされた時より安心する自分がムカつく!


それからも何度かキムくんの家に遊びに行ったけど、アキラさんが来ることはだんだん少なくなっていって、そのうち来なくなってしまった。
中学になってキムくんと遊ぶことはめっきり減ったけど、やっぱり心配してくれるのか登下校は一緒。
将五くんと奈良くんも一緒だから、女子からどんな目で見られてるか怖い。
でもまあ安全だからいいか、と油断したのが運の尽き。
3人と別れて1人で歩いてたら突然腕を引っ張られた。
別の制服に、悪そうな顔の男が複数。
他校のヤンキーか、と気づいたけど3人はもう別の方向へ行ってしまった。
こんな閑静な場所で助けなんて来るはずもない。

(いやだ、いやだいやだいやだ!!!)
「だれかっ!!たすけっ、むぐっ!!」

恐怖で掠れつつも必死に声をあげた。
でもそれもすぐに塞がれて、両腕両足は掴まれて動けない。
絶体絶命。ああ、終わった。

「ア、キラ……さ、」

絞り出したのはいじわるな笑顔のあの人。
いるはずないって分かってるのに、呼んでしまったのはまあそういうことなんだろう。
今さらになって自分の気持ちに気づくなんて馬鹿すぎる。

(気づきたくなかったなぁ)

男たちの手が伸びてきて、私は咄嗟に目を閉じた。


全然触れてこない。
不思議に思ってうっすらと目を開ける。
そこにはスーツの男が1人だけで、先程のヤンキーたちは跡形もなく消えていた。
スーツの男がこちらを振り返り、駆け寄ってくる。

「大丈夫かい?怪我は?」
「……ぁ、…」

その声、知ってる。

「アキラ……さん……?」
「……よかった、覚えててくれて」

ホッとしたように笑う彼。そんな笑い方もできるんだ。
どうやらしばらく地元を離れていたらしく、つい3日前に帰ってきたばかりらしい。
手足の拘束を解いてくれたアキラさんに、私は勢いよく抱きついた。
身体が震えて、涙が止まらない。
アキラさんはそんな私の背中を優しく撫でて、「もう大丈夫だよ」と優しい声で励ましてくれた。

「アキラさん…」
「ん?」
「好き。多分ずっと前から」
「……、」

ようやく落ち着いた頃、どさくさに紛れて告白した。
アキラさんは目を丸くしていたが、すぐに懐かしい意地悪な顔になった。

「君が大人になっても、まだ好きでいてくれるなら」

その時は結婚しようか、そう耳元で告げたアキラさん。
私はその言葉に真っ赤になりつつ、『結婚』という二文字に心が踊った。

「約束よ!絶対だから!」
「ああ。約束だ」

子どもじみた約束をして、指切りもして。



「約束を果たされに来ました!!」と宣言してアキラさんのところへ押しかけるのは、もう少し未来の話。



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