なんで付き合ってるんだっけ、と隣で眠る彼を見て考えることが多くなった。
最初の頃は楽しかった。
忙しくてなかなか会えない彼に会えるという日は朝から浮き足立っていて、彼が好きだと言ってくれた服を着て、買ってくれたピアスを着けて。
彼は何も知らない私を何もかも染め上げてしまった。
今となってはなにがきっかけで好きになったのかも分からない。
(あぁ、またついてる)
うなじのあたり、髪の毛に隠れるか隠れないかギリギリのところにハッキリと残る赤い痕。
気が付かないわけがない。
私の他にも女がいると気づいたのは付き合い始めてすぐだった。
用事があると言っていた彼が街なかで派手な女の子と腕を組んで歩いているのを見かけた。
とても絵になっていて、遊ばれていたんだと思った。
でも、会えた時の態度や仕草がとても優しくて、彼は他の女性に対してもこうなんだと知った。
「好いとーよ」
情事のさなかに囁かれる熱い告白も、どこか冷めた心で聞いていた。
どうしても彼の隣で寝たくなくてベッドを出ようとすると腕を掴まれた。
「どこ行くと」
「…帰る。離して」
「離さん」
子どもみたいに強情な態度を見せる彼に、ああこんなところも好きだったなと心の中で苦笑した。
諦めてベッドへ戻ると離さないと言わんばかりに腰にしがみつかれ、仕方なく膝枕をすることになった。
「ねぇ、ぐりちゃん」
「ん?」
「別れよっか」
「……え、」
私もう疲れちゃった、と彼のふわふわな頭を撫でながら優しく言うと、ガバッと彼が身体を起こした。
「なし、そげんこつ言うと」
「だってね、知ってるんだよ」
「なにを…」
「他にも女の子がいること、知ってるの」
ア然とした彼の腕からすり抜けて、昨晩の抜け殻をかき集める。
手早く着替えを済ませるとようやく彼は焦りを見せた。
彼はとても魅力的で、野性味に溢れていて、女の子が放っておくはずがない。
私はずっと彼の特別になりたかったけど、彼にとって私は複数いる彼女の一人。
かわいくてかっこよくて強くて優しいアナタ。
「さよなら、ぐりちゃん」
楽しかったよ、と笑って、制止する声も聞こえないフリをして、ヒラヒラと手を振って、玄関の扉をゆっくりと開けて外に出た。
(別れちゃった)
心にぽっかりと穴が空いた気がしたけれど、実をいうと彼のことは今でも嫌いじゃない。
顔も名前も知らない女の子に嫉妬する自分に疲れただけ。
(私のことなんてすぐ忘れちゃうんだろうな)
私を忘れた頃、また次の私をつくってしまうんだろう。
「だいきらい」
思ってもないことを口にして、ポロポロと涙をこぼして家路を歩く惨めな女をつくってしまうんだ。
ああ、なんて悪い男(ひと)。
それでもアナタを嫌いになれない私は、なんて愚かな女なんだろう。
おしまい。
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