晩飯を食い終わり風呂の準備をしてる頃、多数の虚の気配とともに伝令神機が五月蝿く鳴り始めた。
すぐに義骸を脱いで外へ出ると、巨大虚の周りを10体以上の虚が囲んでいた。

「……チッ、雑魚ばっかりじゃねェか」

例の敵かと思って来たのにこれは拍子抜けだ。
斬魄刀を抜いてただ横に振る。
その剣圧だけで周りにいた雑魚は消え失せ、残るは巨大虚のみ。

「簡単にくたばってくれんなよ?」

けたたましい声をあげて向かってくる敵へ勢いよく刀を振り下ろす。

『ヴオオオォォオオオオッッッッ!!!!!』
「!!」

皮膚を切り裂く感触が得られるかと思いきや、手元に残ったのは刀が弾かれた痺れだった。
そこでようやく思い出した。

(…そういえば霊圧抑えてたんだった)

あ、と思ったその隙を突かれ敵の攻撃が一発、右腹を掠めた。
当たる瞬間に咄嗟に避けたが、ポリポリと頭をかきながら「めんどくせェ…」と独りごち、再び敵へと向かう。
先程よりも微妙に刀の角度を変え、踏み込みを深くする。
今度こそ、刀が肉を断つ感触が伝わってきた。
同時に敵の片腕が彼方へ飛んでいき、やがて消滅した。

「…よし、次で終いだ」

片腕を落とされながらなおも向かってくる敵へ、より深い一撃を振り下ろした。
仮面を割り、消えていく敵。
するとその背後から同じサイズの巨大虚がもう一体姿を現した。

『ゴギャアアアァァアァアアアッッッ!!!!』
「もう一体いやがったか…ヘッ、上等だ!」

勝負は一撃で決まった。
横に一閃、敵はそれで跡形もなく消滅した。

「……だりぃ」

結果を言うと、まあ怪我はした。
敵に刃が届く瞬間、咄嗟の足掻きか脇腹を一突きされた。

(さっさと風呂に入りてェな)

そんなことを思っていると、「更木サーン!怪我してるならお早くー!」と下から声が聞こえた。
見ると浦原が手を振っている。
喚く浦原は煩いが、技術開発局の創設者だけあって治療の腕は確かだ。
敵も消えたし戻るか、と下へ降りようとした時。

「───────……!」

周囲を巨大な霊圧が覆った。
すぐに辺りを見渡すが、敵影は見えない。

「更木サン」

下にいた浦原がいつの間にか隣に立っていた。
うっすらと冷や汗を浮かべた浦原とは違い、肌にひしひしと感じる強大な霊圧に知らず笑みが浮かぶ。

(どこだ…どこにいやがる!)

ところがその霊圧の持ち主はいつまで経っても現れることなく、やがてその気配はスーッと消えていった。

「……なんだ、つまんねェな」

何もせず消えた敵の存在を感じて、当初持っていた期待は途端に霧散した。
それと同時に消えていた怠さが顔を見せた。

「いやー、ヒヤヒヤしましたねぇ!」

パタパタと扇を振る浦原の言葉に小さく舌打ちを打つ。

「なにがだ。向かって来ねェ敵なんざつまらねぇだけじゃねぇか」
「えぇ………」

俺の言葉に浦原は引き気味のようだったが構わず無視した。

「飽きた。帰る」

そう言うと、浦原はキョトンとしたあとやれやれとでもいう風に首を振った。

「更木サン…貴方の役目は『あの虚が攻撃を仕掛ける素振りを見せたら即座に迎撃する』ってことッスよ?どんなに乗り気じゃなくても、現世に介入する以上どの道アレは斬らなきゃいけないモノなんです。なので飽きててもこっちに居てもらいますよ」

とりあえず怪我の治療しますね♪といつの間にか目の前に用意されてた義骸へ無理やり入れられ、抵抗する間もなく店内に引きずり込まれた。

「見事に穴が空いちゃってますねぇ〜」
「…うるせェ。治すならさっさと治せ」
「はいはい…巨大虚、強かったッスか?」

簡単な回道で空いた穴を埋めると、すかさず包帯を巻いていく、そんな中で浦原から声をかけられた。

「別に…弱かったな。霊圧抑えてんの忘れていつも通り向かっていったら刀が通らなかったが、力加減変えたら斬れた」
「弱かったッスか…それはなにより」

はい終わりましたよ、と言われ腹をさする。
触り慣れた包帯の感触に、漸く戦いの中で生きられる実感が沸いてきて知らず気分が上がる。

「とりあえず、これからの戦いで重傷を負わないとは言いきれないので、とりあえず四番隊に隊士の派遣をお願いしておきますね」

そう言って、浦原は伝令神機を使ってどこかに連絡をとり始めた。

(風呂、入るか)

そういえばさっき風呂に入る直前だったことを思い出し、風呂場へ向かった。
構造は隊舎の風呂場と然程変わりないように見えた。
ズラリと並んだボトル全てを無視して固形石鹸を手に取る。
しっかりと泡立てながら髪へ馴染ませ、綺麗に洗い流した。
同様に、垢擦りへ石鹸を擦り付けて泡立たせ、全身を洗う。
血や汚れを全て洗い流し、かけられていた手拭いで身体を拭き、出撃前に準備していた着替えへ袖を通した。
髪の毛から滴る水滴が煩わしいので身体を拭いた手拭いでそのまま簡単に髪を覆ってある程度水気を切ったあと、水分を含んで重くなった手拭いを洗濯カゴの中に放り込んだ。

「……あー、だるい」

宛てがわれた部屋に入り、隅に置かれていた布団を広げて寝る準備をしていると、「入りますよ〜」の声と同時に断りなく襖が開かれた。

「なんだ」
「四番隊と連絡が、」
「そうか。明日聞くから出てけ」
「今来たばっかりなのに!?」
「うるせェ。俺は眠ィんだ」

えー!と言わんばかりの顔をしている浦原に背を向けて布団に潜り込んだ。
すると後ろからため息を漏らしながら「仕方ないッスねぇもう…」と聞こえ、そのあとパタリと襖の閉じる音がしたので、それで漸く目を閉じた。
霊圧を抑えられすぎた慣れない戦いで珍しく疲れてた(自覚はなかった)からか、その日はとてもぐっすりと眠れた、気がする。



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